第九話【水浴び】
タンスや机などをドアの前に置いたあと、二人はベッドへ横になった。
「瑠璃さん」と腕枕された状態で月がつぶやく。
「ん?」
「明日の朝は水浴びをしたいので、見守っててもらえますか?」
「……つまり、月の裸を凝視したらいいのか? それはもちろん歓迎だけど」
「違います。魔物がきたら退治して欲しいんですよ。この辺の敵であれば瑠璃さん一人でも勝てるのはわかっていますし」
「あー、そういうことか。任せろ」
「そのお礼として、私の身体は見放題です!」
「いや、言われなくても見るから」
「ふふっ。変態ですね」
月は嬉しそうに笑う。
「ちなみにだけど、俺って普通の男よりも性欲が少ないよな?」
「普通の人がどれくらいなのか私にはわからないんですけど、確かにそんな気がします。私以外のママ友とかと参観日で会っても、瑠璃さんってあんまり興味なさそうにしていますしね」
「話を振ってくるからとりあえず合わせていたけど、あの人たちってしょうもない話しかしてこないじゃん。上辺だけというか、結局自慢をしたいだけなんだよな」
「それはよくわかります。夫の収入だったり、子どもがいかにすごいかを、遠回しに伝えてくるんですよ」
「まあ、別に腹が立ったりもしないけどさ……。そもそも月と祈以外の女に興味がないし」
「あ、ありがとうございます」
ちゃっかり祈が女の子扱いされているのに、月は否定することなくお礼を言った。
それから少しの間が空いたあと、
「はぁ……全然眠たくないな」
「本当ですか? 今日一日あれだけ動いたのに……。全く、瑠璃さんは元気すぎますよ」
「…………」
「いつ疲れるんです?」
「…………」
「ん?」
「…………」
気づくと瑠璃は目を瞑っていた。
月が彼の頬に軽く触れてみるも、起きる気配はない。
「何が全然眠たくないんですか?」
「…………」
「ふふっ、おやすみなさい。瑠璃さん」
◆ ◇ ◆
次の日の朝。
「気持ちいいですぅ~」
小屋の裏に流れている川のなかで水浴びをしながら、月がそんな声を上げた。
控えめな胸。
白くて艶やかな脚線美。
絹のように真っ白で美しい白髪ロングヘアーが揺れた際に見えるうなじは、すごい威力の色香を醸し出している。
そんな彼女の姿に、瑠璃の視線が引き寄せられてしまうのも無理はないだろう。
「瑠璃さん。私を見るのもいいんですけど、ちゃんと周りを警戒しててくださいね?」
頬をほんのり桜色に染めて、月が言った。
「それは無理だな。かわいいとか美しいを超えて尊すぎるから、視線が勝手に吸い寄せられる」
「ふふっ。そんなに穴が空くほど見られたら恥ずかしいです〜」
瑠璃は体を伸ばし、ふいに眉を顰める。
「いってぇ……」
「それ、朝からずっと言ってますね。最近身体を動かしていなかったにもかかわらず、昨日たくさんの魔物と戦ったからですよ」
「まあ問題ない。俺にとっては常に筋肉痛になっているくらいが一番心地いいんだ」
「やっぱり瑠璃さんは普通じゃありません」
「俺に普通などという三次元そのものと言っても過言ではない言葉は当てはまらない」
「そうですか……」
「おっ! ゴブリンが近づいてきているな。月、戦えるか?」
「いや、無理ですよ!? そもそも魔物を倒すために瑠璃さんがいるんですから」
「それはそうなんだが、その美しい裸体で魔物と戦っている光景を見てみたくなった」
「この姿で戦うのは、えっと…………夜の瑠璃さんだけでいいです」
恥じらうようにして紡がれた言葉に、彼は思わず頷く。
「お……おう。そうだな」
それから真剣な表情でゴブリンのほうへと向き、拳を構えた。
「グゥゥゥ」
「かかってこいよ、格下」
「グアァァァ!!」
「遅い」
殴りかかってきたゴブリンに向かってハイキックを放つ。
腕のガードの上から頭に直撃し、相手はさっそく吹き飛んでいった。
木にぶつかり、地面へと倒れる。
「月、別の魔物が襲ってきたらすぐに知らせろよー!」
そう言いながらゴブリンに近づき、顔面を何度も殴っていく。
拳が耳の下に当たった瞬間、ゴキッという音が響いた。
顎の骨が砕けたようだ。
「グァッ!?」
今ので完全に戦意が喪失したらしく、相手は両目を閉じて必死に顔をガードしている。
それから、ゴブリンが絶命するのに大して時間はかからなかった。
レベルが増えるたびにHP、攻撃、防御、素早さだけを上げているため、徐々に魔物との戦力差が開いてきているのだ。
「瑠璃さん、お疲れ様です」
「おう、あいつのおかげで筋肉痛が楽になってきた」
「苦痛で筋肉痛を迎えに行ったってことですか?」
「そうそう、それ」
「確かに私も数えきれないほど経験しているので、それには共感できます」
「これでもっと戦えそうだ」
「もう水浴びは終わったので、今日も一日レベル上げを頑張りましょう!」
「そうだな……。あ、月。いいこと思いついた」
「はい?」
「俺は別にいくらでも続けられるけど、月に関してはレベル上げをするのに目標があったほうがやる気が出るだろ?」
「まあ、そうですね。瑠璃さんと違って私は同じことを続けるのがあまり好きではありませんし」
そうは言っても、魔神のダンジョンにて瑠璃と一緒に何年も同じ場所でレベル上げをしていたことから、彼女の精神力も相当おかしいのだが。
身近に瑠璃という異常な存在がいるせいで、月にその自覚はない。
「というわけで、最初の場所にいた強そうな牛を倒せたら、分かれ道を先に進むとしよう。それまではこの森で特訓だ」
「あー、それいいですね」
「さぁ行くぞ! ついてこい」
「はい!! ……って、ちょっと待ってくださいよ。まだ服を着てません」
「いや、早く着ろよ!」
「身体が乾いてないんですよぉ~」




