第六話【森】
森の目の前に到着した。
道は今までと同じように続いているのだが、巨大な木々に覆われているせいで薄暗い。
風が通るたびにガサッ、ガサッという葉っぱの擦れる音が聞こえてくる。
「行くか」
「瑠璃さん、ここは危ないような気がします。私たちはまだレベル2なんですから、絶対に油断は禁物ですよ? 慎重に攻略していきましょう」
「誰に言っている。俺が油断なんてするはずないだろ。こう見えても世界最強の男だぞ? どんなやつが襲ってきても余裕すぎて耳からあくびが出そうだぜ」
「それを油断というんです!」
進み始めてすぐ、いろんな魔物の存在が目に入ってきた。
茎に顔があり、手足が生えている紫色のキノコ。
棍棒を手に持っている、人型で緑色のゴブリン。
頭に青色のハットを被っていて、口だけがある巨大なりんご。
「あのりんごの魔物は初めて見たな」
「そうですね。魔神さんのダンジョンでは、そもそもりんご型の敵が存在していませんでした」
「そしてさっきの草原といい、この森といい、絶対神のダンジョンはクオリティーが高いな」
「はい」
「今頃魔神は新しいダンジョンを創っている頃だろうけど、少しはまともになっているのか?」
「そういえば、ファーストステージは完成度が高かったですけど、セカンドステージ以降はなんというか雑でしたよね。いろいろとバランスが悪かったり、罠が凶悪すぎたり」
「ああ。所々に配置されていた強敵の経験値とかも、明らかに量がおかしかったもんな」
例を挙げるとするならば、オリハルコンの部屋にいた白竜や、湖のネッシーなどだ。
「ちなみに、絶対神さんが創ったこのダンジョンにも、規格外な魔物とかいるんですかね?」
「さぁ? 四次元の思考回路をもってしてもわからない。……が、絶対神ってマジですごい存在みたいだし、杜撰なところはないと思うぞ」
「だといいんですけど……あっ、瑠璃さん、走りましょう! 横からゴブリンが近づいてきてます」
「くそ、バレたか」
「……はい?」
「もう少しで戦えそうだったのに……」
「気づいていたなら言ってください!」
「ま、仕方ない。戦うばかりしていても水場にたどり着けなさそうだし、逃げるか」
「やけに聞き分けがいいですね。はい、そうしましょう」
「俺は、月の言うことならなんでも素直に聞く男だからな」
「どの口が言っているんですか! あまりでたらめばかり言っていたら、瞬間接着剤で固めますよ?」
「絶対にやめてくれ」
瑠璃と月は森のなかを駆け抜けていく。
同じようにゴブリンも走っているが、二人のほうが速いようだ。
しかし、まだレベル2というだけあり、身体能力は一般人とほとんど変わらない。
ゆえに、すぐ体力が限界を迎えてしまう。
先にペースが落ち始めたのは、月のほうだった。
「瑠璃ふぁん。待ってくだ……さい」
「誰が瑠璃ふぁんだ、こら。……って、もう疲れたのか?」
「はい……。無理です」
「よし、仕方ないから、ゴブリンを撃退する」
「任せ、ました」
「おう、任されました! ゴブリン程度なら俺一人でなんとかなるだろうし、休んでいろ」
「は……はい」
膝に両手を置いて息を整えている彼女の横を通り過ぎ、瑠璃はゴブリンに向かっていく。
相手がタイミングよく振り下ろしてきた棍棒を少しだけ横に移動して躱し、顎に全力の右フックを入れた。
「グァァァ!」
ゴブリンは脳が揺れたらしく、一瞬ふらつくも、すぐに棍棒を薙ぎ払う。
しかし、すでにしゃがんでいる彼に当たることはない。
「よっと」
「グァ!?」
瑠璃が立ち上がりざまに顎へアッパーを入れたことにより、ゴブリンは地面へと倒れた。
「まだまだぁ!!」
馬乗りになって顔面を容赦なく殴っていく。
そのたびに口や鼻から出てくる血は、漫画などでよくある鮮やかな赤ではなく、一割ほど黒を混ぜたような残酷な色。
ゴブリンは両手を使って必死に抵抗しているが、瑠璃はそれを悉くかいくぐって殴り続ける。
とそこで相手が「ゲボッ!」と大量の血を吐いた。
地面の土や草が、真っ赤に染色されていく。
その後、さほど時間がかかることなく、ゴブリンは目元に涙を浮かべたまま動かなくなった。
「レベルアップは……しないか」
「あのぉ……。一応確認したいんですけど、私と瑠璃さんって同じレベルですよね?」
「ああ。……というかわざわざ言わなくてもわかってるだろ」
「それはそうなんですが……。なんか私、一生瑠璃さんに追いつけないような気がします。センスの差って言うんですかね? 今それを改めて感じました」
「ここで問題。でーでん!」
「は、はい?」
「どうして俺はこんなにも強いのでしょう」
「う〜ん。今の場面だと、生まれつき戦いのセンスが高かったからと答えるのが普通なんでしょうけど、わざわざ瑠璃さんが問題にするくらいなので、そんなに単純じゃないと思うんですよ。だから……私を守るため、とかですか?」
「…………ようし、邪魔な魔物の駆除も終わったし、先に進もうぜ」
「絶対当たりでしたよね?」
瑠璃は木々を見上げながら無言で先へと進んでいく。
「瑠璃さん?」
「……ん?」
「ん? じゃありませんよ」
「何か音が聞こえないか?」
「えっ……音ですか?」
「水の流れる音みたいな」
「…………あ、確かに」




