第二話【魔物との戦闘】
瑠璃と月は、音を立てないように道に沿って歩き始めた。
「あれはやばいだろ」
「今の私たちじゃ絶対に勝てません」
「くそ、せめて昔のレベルが残っていれば、跡形もなく消せるのに」
「……ですね」
「ま、ないものをねだっても仕方がない」
少しの間歩き、やがて巨大な牛が見えなくなってきたところで、二人は立ち止まる。
「近くにウサギがいるし、あいつを倒そう」と瑠璃。
「嫌です。まずはスライムでレベルを上げるべきでしょう。弱い状態であの角で攻撃されたらどうするんですか? 身体に刺さって出血多量で死にますよ?」
「いや、ウサギ程度に負けることはないだろ」
「今の瑠璃さんは一般人と同じなんです。昔の感覚は忘れてください」
「……仕方ない。ここで言い争っていても時間の無駄だし、スライムにするか」
そう言いつつ瑠璃は歩き出す。
「正直言って、私も瑠璃さんもまともに戦闘ができないと思います」
「あー、確かに……。レベルが下がっただけじゃなくて、年も取ったからな」
「はい。なんの武器も持たずにスライムを倒せるかどうかすら怪しいですよ」
「いや、それはないだろ。正直さっきの牛以外の魔物ならいけるぞ」
「相変わらず自信満々ですけど、瑠璃さんも最近は全然身体を動かしてませんし、いい加減自分が弱いことを自覚してください」
「まあ見ていろって」
瑠璃はその場で立ち止まり、三回ほどジャンプした。
それから屈伸やアキレス腱を伸ばしたあとで、急に走り出す。
「瑠璃さん?」
彼は勢いよくスライムの前に移動し、
「おらぁぁぁ!」
思いっきり相手を蹴り飛ばした。
とても嬉しそうな表情。
昔のダンジョンでは力を抑えていた時の割合のほうが多かったため、新鮮なのだろう。
相手はすぐさま反撃の体当たりを繰り出してくる。
「丸見えだぞ?」
そうつぶやきつつ、軽やかな横ステップを踏んで躱し、通り抜けていくスライムを背後から摑んだ。
そして近くにあった岩に向かって投げつける。
岩に衝突して地面に落下した直後、相手は分が悪いと感じたらしく逃げ始めた。
「おい、待てよ」
すぐに追いついて放たれた瑠璃の蹴りが直撃し、スライムは形が崩れて水たまりのように広がった。
絶命したようだ。
「レベルアップはしないですね……って、どこ行くんですか!?」
「ちょっとノッてきたから、あそこの猫も倒してみる」
「見ているこっちが怖いのでスライムにしてくださいよ! ……もうっ! 自分勝手なんですから」
瑠璃は頭から葉っぱが生えている猫へと近づいていき、蹴りかかるのと同時にバックステップを踏んだ。
猫の爪による攻撃を躱したのである。
それから五秒ほど睨めっこを続けた後、瑠璃は一度近づくふりをした。
それに騙された猫が爪を振り下ろしたタイミングで踏み込み、相手の顔面に蹴りを入れる。
「にゃっ!?」
「ほら、かかってこいよ」
更に追撃のローキックが猫の首元に命中。
爪によるカウンターが放たれるも、もうそこに瑠璃はいない。
すでに届かないギリギリの距離を取っていた。
冷静に相手の行動を見て、素早く反応できているのは、さすがの戦闘センスだろう。
若い時と比べても全く劣っていない。
「にゃっ!」
「よっ、と」
相手の体当たりを横ステップで躱す瑠璃。
そんな彼を無視し、猫はそのまま月のほうへと向かっていく。
どうやらこの男を相手にするのは分が悪いと判断したらしい。
しかし戦い始めたあとで逃げるという選択肢は猫にはないらしく、比較的弱そうに見える月に狙いを定めたようだ。
瑠璃はそのことに気づき、すぐに追いかけ始める。




