第一話【始まり】
高低差がある大草原。
所々に巨大な岩があったり、濃い緑色の葉っぱを咲かせた木々が生えている。
晴れ渡る空には白い雲がいくつも浮かんでおり、気温は少し温かい程度だ。
地面が盛り上がっていたりするせいでさほど遠くまで見通せないが、遠くに薄い青色の山が見える。
そんな大草原には、一本の道があった。
とは言ってもアスファルトやコンクリートのような大層なものではなく、草が生えていない土の道。
それがどこかへと続いている。
「ここが絶対神の創ったダンジョンか……」
道の上に立っている比較的小柄な男性がつぶやいた。
彼は琥珀川瑠璃。
黒色のフードつきパーカーの上から黒いリュックを背負っている。
更に白い半ズボンに、黒いスニーカー。
20代後半ほどに見えるが、彼は正真正銘52歳である。
15歳から37歳までダンジョンに潜り続けて、美容に良い成分が含まれている魔物の肉や血を食し続けていたため、見た目が普通よりも若いのだ。
それは隣にいる琥珀川月も同じで、47歳とは思えないほどのかわいい顔つきと絹のように美しい白髪ロングヘアー。
前髪が目の上付近で真っ直ぐ整えられていて、ぶかぶかの白いワンピースがとてもよく似合っている。
というか、彼女に似合わない服装などこの世に存在しないだろうと思えるほどに元がいい。
月は透明に近い水色の双眸で彼を見つめながら、
「とりあえず道なりに進んでみますか?」
「……だな。まずはここがどういう階層なのかを把握したい」
「水場も確保したいですよね。リュックのなかに一リットルの水筒が一本あるだけですし」
「そう言われたら……今のレベルで魔物の血を飲むのは危ないような気がするな」
瑠璃の推測通り、魔物の血や肉には美容に良い効果が含まれている反面、感染症や脱水症状などになる恐れが高いため、体調を崩しやすい。
レベルが低い状態で飲み続けていれば、そのうち死んでしまうだろう。
昔の瑠璃のようにものすごい速度でレベルを上げ続ければ、なんとか生き延びることは可能だが。
「そういえばレベルシステムはあるんでしょうか? 魔神の創ったダンジョンがなくなるのと同時に、私たちのレベルもなくなりましたけど」
「確かに……。見てみよう」
瑠璃は頭のなかで【メニュー】と思い浮かべる。
すると目の前に出現した。
「おぉ、久しぶりに見たな。さっそくステータス画面を……」
【琥珀川 瑠璃 男
冒険者 LV1
HP 46
MP 37
攻撃力 50
防御力 42
素早さ 45
賢さ 46
幸運 50
『所持スキル一覧』】
「弱っ!?」
年を取っているというのもあり、同じレベル1でも若い時に比べて数値は落ちているようだ。
「あっ、私も瑠璃さんと大体同じステータスみたいです。素早さは結構な差で負けていますが、他の数値は全部いい勝負をしてます」
「……月と一緒か。嬉しいけど追いつかれた気がして嬉しくないな」
「何を言っているんですか? 素直に喜んでくださいよ」
「でも、嬉しいとか以上にわくわくする」
「あー、気持ちはわかります。これからどんどん強くなれますからね」
「今回のシステムも、レベルが上がるたびにステータスのポイントがもらえる仕組みだといいんだけど……」
「とりあえず魔物を倒して確かめてみます?」
そう尋ねて月は周囲を見渡す。
水色のぷにぷにしたスライム。
角の生えた丸っこいウサギ。
頭に葉っぱを生やした猫。
魔物とはいえないような、比較的かわいい生き物が辺りをうろついている。
襲ってくる気配はない。
瑠璃は顎に手を当てて少し悩んだあと、首を縦に振る。
「そうだな。じゃあレベルをひとつ上げてみるか。水場の確保はそのあとでいいだろ」
「はい」
「パーティーはどうする?」
「もちろん組みますよ? 組まない理由がないでしょう」
「いや、それぞれ倒した分だけレベルが上がるほうが良くないか?」
「嫌です。私は瑠璃さんと一緒に強くなりたいんです!」
「…………そんなことを言われたら断れないだろ」
「ふふっ、決定ですね」
「ならパーティー申請を送ってくれ」
「はい。どうやらメニュー画面も以前と同じみたいですし、やり方はわかります」
月はメニュー画面を操作していき、途中で「あっ、そういえば」と声を上げて瑠璃のほうを向く。
「一応言っておきますが、拒否しないでくださいよ?」
「……おーん!」
「その返事やめてください」
「まあ安心しろ。お前と一緒に強くなりたいってのは俺も同じだから」
「ならいいです……あ、はい。今申請がいきました」
「承認っと」
「ありがとうございます」
「で、何を倒す? あのウサギか?」
「最初はスライムがいいと思います」
「えー……。あいつは弱くて面白くないから嫌だ」
「まずは慎重にいきましょうよぉ」
瑠璃は他の魔物を探すために周りを見渡し……とある部分で視線を止めた。
「…………」
「瑠璃さん?」
「…………」
「どうかしました?」
「月、今すぐここから離れよう」
瑠璃が彼女の耳元でつぶやいた。
「はい?」
「あそこ」
そうして彼が指さした先には、全長五メートルほどの巨大な牛がいた。
四足歩行で、崖の上を歩いている。
色合いは地球にいる牛と同じで白と黒の二色。
だが、背中に緑色の草が生えており、頭には二本の鋭い角。
全体的におっとりとした雰囲気ではあるが、明らかに序盤で出てくるような敵じゃない。
「……逃げましょう」
「ああ」




