第二話【子ども】
「ただいま~」
入り口のほうから女の子っぽい声が聞こえてくる。
「おう、おかえり」
そう言いながら瑠璃が視線を向けた先には、制服を着た少年の姿があった。
真っ白でふわふわした髪型。
黒い双眼。
13歳の中学生男子とは思えないほど小柄で、女の子のようなかわいらしい顔つきをしている。
白い髪や肌の綺麗さは母親である月譲りだろう。
逆に、ふわっとした髪型や黒い眼は瑠璃によく似ており、まさに二人の子どもと言った感じだ。
そんな少年がカフェテラスに鞄と衣服を置き、裸になった状態でお風呂へと向かってくる。
「お母さんは?」
「今、家のなかで料理を作っている」
「そっか」
「……にしてもお前。いつ見てもかわいいな」
「も~、そういうことを言うのはそろそろやめてよ。僕もう中学生だよ?」
「で、祈ちゃん。今日の学校はどうだった?」
「ちゃん付けしないで! ……まあ学校は、いつも通り楽しかった」
「告白してくる男子とかいないか?」
「僕……男なんだけど?」
そう言って頬を膨らませる祈。
その仕草も月そっくりだ。
「そういえばそうだったな。かわいい見た目と名前のせいで思わず女の子だと勘違いしてしまったぞ」
「名付けたのはお父さんじゃん!」
「いや、最初に提案したのは月だから」
「……」
「さてと、俺はそろそろ家に戻る。愛しの月に一秒でも早く会いたいからな」
「相変わらず仲いいね」
「当たり前だ。じゃあのぼせないうちに戻ってこいよ?」
「あ、お父さん! そういえばちょっと相談したいことがあるんだけど、いい?」
急に祈が真面目な表情になった。
「なんだ? 男の子になる方法とか?」
「最初から男だって! そうじゃなくて、その……夢ができた」
「おぉ夢か……。なんだ? 言ってみろ」
「でも、馬鹿にされそう」
「しないって」
「だってどうせ叶わないだろうし」
「とりあえず言え」
それから30秒ほど間が空いたあと、祈は決心したように口を開く。
「僕、異世界に転移してみたい!」
「なるほど。いいんじゃないか?」
瑠璃は即答した。
「え?」
「お前は俺の血を引いているからな。魔物と戦ってみたり、もっと過酷な環境で過ごしたり、どうせそういうことがしてみたいんだろ?」
「……う、うん」
「俺も子どもの頃はそうだったし、気持ちはわかる」
「けど、異世界に行くなんて無理だよね?」
「いや、できるぞ」
「えっ?」
「とにかく、これ以上は月を加えて話そう。仲間外れにしたらかわいそうだ」
「う、うん」
◆ ◇ ◆
リビングにて。
「「いただきます」」
「私もいただきます」
三人はそれぞれ両手を合わせて言った。
各自大きめの皿にタレのかかったステーキと野菜、ポテトが盛りつけられている。
机の中心にはパンがいくつか入ったバスケット。
「あ~、やっぱり月はおいしいな」
フォークで肉を口に運びつつ、瑠璃が言った。
「私がおいしいんですか!?」
「噛むたびに肉汁が出てくるぞ」
「私からですか?」
「このタレとよく合っていて、マジでうまい。……なぁ祈」
「うん。お母さんのお肉はいつもおいしい!」
「私のお肉を食べさせたことは今まで一度もありませんけど」
「冗談はその辺にしといて、愛しの月」
「はい、なんでしょう? 愛しの瑠璃さん」
「愛する我が娘が、話したいことがあるらしいぞ」
そんな瑠璃の言葉に、祈は眉を顰める。
「僕は娘じゃなくて息子なのに……」
「祈ちゃん、話って? 買ってほしいゲームでもあるの?」
「お母さんまでちゃん付けしないで! えっとね、僕……異世界に行ってみたい。で、その異世界で、お父さんとお母さんみたいな関係を築けるようなパートナーを見つけて、一生を過ごしたいんだ」
「…………え?」
「さっきお風呂でお父さんに相談したら、お母さんもいる時に話そうって言われて」
「異世界っていうと、ライトノベルとかでよくあるやつのこと?」
月の言葉に、瑠璃が頷いて答える。
「ああ。どうやら魔物と戦ったり、白馬の王子様と出会ったりしてみたいらしいぞ」
「僕の恋愛対象は男じゃないよっ!」
「でも、どうやって異世界になんて行くんです? わざとトラックに轢かれるつもりですか?」
「それについてだが、異世界転移できる可能性はある」
「えっ、そんな方法…………あります?」
月は顎に手を当てて考えるが、どうやら思い浮かばないらしい。
「お前もおぼえているだろ? 地球の神様の存在を」
「あ、そういえば!」
「あいつならもしかすると叶えてくれるかもしれない。幸い叶えることのできる願い事はまだあとひとつ残っているしな」
「確かに可能性はありますね。……でも祈ちゃん。まさか本当に行きたいわけじゃないんでしょ?」
「ううん。行きたい」
「今はそう思っていたとしても、一時の感情かもしれないし」
「僕、このまま進学して、どこかに就職して、定年まで働き続けるくらいなら、もっと生を実感できるような場所で過ごしたいんだ! 上手く言えないけど……死と隣り合わせになってみたい」
かわいい顔に似合わず、祈が拳を握りしめて言った。




