第二十話【最終決戦・六】
それから瑠璃と魔神は、ほぼ互角の戦いを行っていった。
フェイントなどの駆け引きは一切行わず、ただひたすら相手を倒すために攻撃していく。
お互いに最小限のガードだけをし、食らってもいい部分の攻撃は無視して攻める。
殴るたびにお互いの血が飛び散って、ダメージが蓄積されていく。
肩が砕けていて左腕が使えないということもあり最初は魔神が有利だったが、徐々に瑠璃のほうが優勢になってきた。
傷ついてHPが減っていく毎に全ステータスが上昇していくのだ。
もっと強く、もっと早く動けと心臓の鼓動が巨大なリズム音を奏でる。
乾いた空気をたくさん吸い込むたびに、喉や肺が悲鳴を上げる。
いつの間にか目に溜まった血のせいで視界が真っ赤に染まっていた。
それでも瑠璃は止まらない。
むしろ、今までで一番の笑みを浮かべていた。
楽しくて仕方がない子どもが浮かべるような、無邪気な笑顔。
二人の戦いをスローモーションで客観的に見ている者がいたならば、瑠璃が勝つのは時間の問題だと誰もが判断するだろう。
あまりの速度に二人の拳から光が見える。
そんな時間すら超越しているかのような攻防は……長くは続かなかった。
突然線が切れたかのように、瑠璃の意識が飛んだ。
限界だった。
動きたいという意思があっても、身体が崩壊を防ぐためにブレーキをかけたのだ。
瑠璃の強靭な精神力により、すぐに意識を取り戻すことはできたが、その時にはもう遅い。
魔神のパンチがすぐ目の前まで迫っていた。
気を抜いた状態での攻撃。
さすがの彼も焦りを感じ、大ダメージを覚悟したその時。
「──っ!?」
魔神が何者かに殴られ、真横へと吹き飛んでいった。
「ふぅ。なんとなく瑠璃さんが危ないような気がして助けにきたんですけど……どうやら間に合ったみたいですね」
そこには月の姿。
先ほど殴った反動のせいだろう。
彼女の拳からは大量の血が流れている。
「月?」
「大丈夫ですか?」
「……助かった。ありがとう」
「当然です」
「はぁ……。せっかく真剣勝負をしていたのに、邪魔しないでくれるかな?」
魔神がこちらへと戻ってきつつ、言った。
「嫌です。私は瑠璃さんを守るって決めてますから」
「弱いくせにしゃしゃるな、雑魚」
「その雑魚に吹き飛ばされたのはどこの誰ですか?」
「チッ、油断しただけだっての。お前鬱陶しいし先に殺すね──」
「──月っ、危ない!!」
「きゃっ!?」
彼女を突き飛ばしたことにより、強烈な右ストレートが胸部に直撃し、瑠璃の心臓は一瞬にして停止した。
「る、瑠璃さん!?」
「あ、今のは終わったかな?」
「瑠璃さん!!」
月はすぐに体勢を立て直し、彼の元へと向かう。
「死んでいたとしても君のせいだからね?」
「……瑠璃……さん」
瑠璃は倒れたまま動く気配がない。
「はぁ……。邪魔さえ入らなければ、もっと気持ちいい終わり方だったのになぁ」
「……瑠璃さん。いつもみたいに、すぐ立ち上がりますよね?」
彼女は瑠璃の体をゆする。
「立ち上がらないよ? 心臓を停止させた手ごたえがあったし」
「どうせ生きているんでしょ?」
「無駄だって」
「私を守るって言ってくれたじゃないですか」
「……」
「約束を破るんですか?」
「……」
「もし勝手に死んだら、私が殺しますよ!」
「……まあいいや。もう君も殺すね」
魔神は落胆したような表情で拳を構える。
「……瑠璃さん! 起きてください!!」
「おう、起きたぞ」
突然、彼の傷だらけの口元が動いた。
「「え?」」




