第十九話【最終決戦・五】
瑠璃は一瞬眉を顰めつつも、すぐに微笑んで相手の胸倉を掴む。
「捕まえたぞ」
「おぉ、すごい。かなりの痛みのはずなのに……。よくそんな楽しそうな顔ができるね」
「……おらぁ!」
魔神の胸倉を引き寄せ、鼻に思いっきり頭突きを入れた。
「もー! 痛いじゃん」
「俺のほうがダメージ食らってるっての」
「ははっ、それもそうだね」
「というかお前嘘ついているだろ」
「え?」
「全然本気を出している気がしないぞ」
「あ、バレた? うん、そうだよ」
魔神はあっさりと認めた。
「やっぱりか」
「接戦って楽しいじゃん」
「まあ、それには同意だ」
「だからわざと君の力に合わせてあげているんだよ」
「でも、それはあまり気持ちのいいものではないな」
「だって魔神である僕が本気を出したら、簡単に終わっちゃうんだもん」
「気に食わねぇ」
「あはは! 何度も言うようだけど、魔神と人間ではそもそもの地力が違うんだよ」
「……シュッ」
瑠璃は寝転がったまま、相手の顔面に向かって右ストレートを放った。
しかし、魔神はそれを余裕の表情で躱す。
「遅すぎるって」
「くそっ……」
「あ、じゃあ、少しの間だけ本気を出してあげようか?」
「最初から出せよ」
「ふふっ、スタート!」
瞬間、魔神の姿がぶれて、気づくと瑠璃の体がボロボロになっていた。
「うっ」
「はい、終了。見えなかったでしょ? 僕が本気を出すとこんな感じなんだよ」
「……」
「にしてもすごいね。いくら下等な神から加護を受けたといっても、魔神の本気を受けて生きている人間なんて普通いないよ?」
瑠璃はゆっくりと立ち上がり、口を開く。
「どうした? 魔神の全力ってのはその程度か?」
「ん?」
「もっと打ってこいよ」
「君本当にすごいね。じゃあ特別にサービスしてあげる。延長料金は無料でいいよ」
再び魔神の姿がぶれたかと思えば、瑠璃は地面に倒れていた。
左肩だけでなく、肋骨二本、鼻骨、左手骨など、いろんな個所が折れている。
更に右の鼓膜も破れているようだ。
それでも彼は立ち上がる。
「ふぅ……。ちょっと動きが見えるようになってきた」
「わお、まだ立てるんだ」
「お前神のくせに弱いんだな。これなら勝てそうだ」
「そんなボロボロの体で何を言っているの?」
「ボロボロ? どこがだ?」
「ふふっ。その強がりがいつまでもつかな」
魔神が高速で繰り出す攻撃を、瑠璃は片手で十回以上弾いた。
しかし手数の差にやられ、最終的に地面へと叩きつけられる。
だがその一秒後、瑠璃は立ち上がっていた。
「不思議とやられるたびにお前の動きが遅くなっていく……」
「はぁ?」
「まさかとは思うが、手加減しているのか?」
「そんなことするはずないじゃん」
「ならさっさと攻撃してこい。そんなんじゃ俺は倒れないぞ?」
「あぁー。やっぱり君、ムカつくなぁ」
速い速度で近づいてくる魔神をじっと見つめ、瑠璃は一直線に顔面へカウンターを入れた。
魔神は鼻血を放出しつつ、ものすごい速度で後ろへと吹き飛んでいく。
「やっぱりあいつ手加減してんだろ」
そう言いながらも、瑠璃はなにか違和感を感じていた。
まるでダメージを負うたびに身体能力が上がっていくような。
「……もしかして」
そこで彼はとあるスキルのことを思い出す。
【弱者の意地:逆境になるほどステータスがアップする】
「そういえばそんなスキルを習得したな」
「ついさっきわかったよ。……君、レベルをカンストさせてあのスキルを手に入れたんでしょ?」
魔神は瑠璃の目の前へと戻ってくるなり、納得したようにつぶやいた。
「俺も今思い出した」
「なるほど……。じゃあ時間をかけるのは悪手かもね。次からは容赦なく殺しにいこっと」
「今更おせぇよ」
「それはどうかな?」




