第十四話【魔神】
10分後。
瑠璃はまだ月をおんぶして階段を上っていた。
「長すぎないか?」
「全然終わりが見えないです」
「時間の無駄だしそろそろ走ろうと思うんだけど、いいよな?」
「はい。ですが、いきなり全力はやめてくださいね? 心臓に悪いので」
「誰に言ってんだ。俺は今まで一度として月に危害が出そうなことをしたことなんてないだろ」
「どの口が言っているんですか!」
そんなやり取りをしつつも、瑠璃は徐々にスピードを上げていく。
全力とまではいかないが、それなりの速度で上がり続けること一時間。
ようやく終わりが見えてきた。
瑠璃の敏捷性をもってしてもこれだけの時間がかかったことから、どれだけふざけた長さだったのかがわかる。
「なんだこのドア」
目の前で立ち止まり、瑠璃がつぶやいた。
木製で茶色。
銀色のドアノブ。
左右真っ黒の壁に挟まれて、明らかに不自然な見た目だった。
「家庭用……ですかね?」
「確かに日本でよく見るやつだな」
月を背中から下ろしつつ、彼が返答した。
「てっきりこの階段を登り切った先にラスボスが待ち構えているものだとばかり思っていたんですけど……全然そんな感じがしないです」
「入ってみればわかるだろ」
瑠璃はさっそくドアを開ける。
するとそこは……和室だった。
畳10枚分程度の広さで、なぜか仏壇にかわいいアニメキャラクターのイラストが立てかけられている。
他にも、ゲームの箱や漫画が大量に並べられている本棚。
巨大なテレビと、ゲーム機。
布団。
どれもダンジョンのなかにあるとは思えないような物だが、一番異質なのは、部屋の中心に置かれている机で漫画を読んでいる男の子の存在だろう。
黒髪で九歳ほどに見えるその少年は瑠璃と月の存在に気づいたらしく、漫画から目を離す。
「あれ? 君たち地球人だよね? やっとここまでたどり着けたんだぁ」
「誰だお前」
瑠璃が眉間にしわを寄せた。
「僕? 僕は魔神だよ!」
「魔神?」
「暇だったから地球にダンジョンとレベルシステムを創って遊んでいたんだ。……一生懸命頑張ってたどり着いた人間を弄んで殺すためにね?」
そう言って、魔神は嬉しそうに微笑んだ。
「……つまり、お前がダンジョンのラスボスということか?」
「まあね」
「ちなみにお前を倒したらどうなるんだ?」
「んんー。言っても無駄だと思うよ?」
「は?」
「だって僕、強いから」
「いや、どう見ても俺のほうが強いだろ」
「あはは! こんなダンジョンに苦戦するような人間程度が、魔神の僕に勝てるはずないじゃん」
「……」
「てっきり三年くらいで誰かたどり着くんじゃないかと思っていたんだけど、もう20年近く経つよ? ……はぁ、正直地球の人間にはがっかりしたね。ほかの異世界の子たちは、早くて半年くらいでたどり着いたりするのにさ」
「は、半年って……」
月が驚きの表情を浮かべる。
「遅くて悪かったな。お前が仕掛けたダンジョンの罠のせいで時間がかかったんだよ」
「あはは!」
「その笑い方やめろ」
「やめないよ。僕は僕がやりたいことをやりたい時にするんだ」
「で、お前を倒したらどうなるのかについては言わないのか?」
「あはは! だって僕が地球人みたいな下等種族ごときに負けるはずないからね」
「……お前、魔神のくせに三次元の考え方しかできないんだな」
「え?」
魔神が首を傾げる。
「そもそも地球人が下等種族だと誰が決めたんだ?」
「それはもちろん僕だけど」
瑠璃は小さくため息をつき、続ける。
「……視野が狭すぎてがっかりした。ダンジョンを創ったやつに出会えたら、もっと面白い次元での話ができると思っていたのに、しょうもないなお前」
「何が言いたいのかな?」
魔神の目元が一瞬ヒクついた。
「偉い偉い魔神様の次元に合わせて、わかりやすいように説明してやる。……この世には例外があるというのを教えてやろう。お前を軽く捻り潰すことでな」
「……君、今までで一番ムカつく生物だね」
「よし、決まりだ。今すぐ勝負するぞ」
「……」
「ほら、さっさとかかってこいよ。……あ、ちなみに殺しはしないから安心しろ。お前をこいつの両親のお墓に連れていく予定だから」
そう言って瑠璃は彼女の頭を撫でた。
「ダンジョンを創った元凶をお墓の前で土下座させる。……とうとう私の夢が叶いそうですね」
「だな」
「何言ってんの? 僕は土下座なんてしないよ?」
「いや、お前にしろなんて言ってねぇ。させるって言ったんだ。人の話はよく聞いとけ」
「もういいや。君面倒だし……転移!」
魔神がそうつぶやいた直後、景色が変わった。




