JK真白ちゃん
何度も言うようだけど、私立郡中女子はこの街の中でも富裕層のご令嬢たちが通うかなり立派な学校だ。その規模は富裕層向けと言うのもあって、大体が何でも大きいし広い。
教室の広さは流石に一般的な高校とさほど変化はないが、廊下も広いし、エアコンは完備されているし、設備が一々真新しい物ばかりで、如何にもお金がかかっている。特に三限目の音楽の授業は、バイオリンやチェンバロと言った、普通は学校に無い楽器たちが、音楽準備室に普通に並んでいた。
千草が言うにはどれも20万くらいのそうでもない価格帯の物ばかりだと言うが、普通の学校には20万もする物を、生徒が触れるようになっていない。流石はお嬢様、金銭感覚が狂ってらっしゃる……。
そんなクラリと自分の常識が根底から揺らぎそうな経験を何回かすれば、この学食の広さくらいなら、まだ何とかなる。いや、広すぎでは?とは思うけども。なにせ、見たところ広い校舎の1階フロアをほぼほぼぶち抜いているのではないだろうか?
テラス席まで見える。ここは本当に学校か?
「注文はあそこの電子パネルから注文できる。空いている席もあそこで見れるから、空いている席番を指定して、欲しい料理を注文すれば、後はウェイトレスの人が運んでくれる」
「……ここ、学校だよね?」
まるで高級ホテルだ。注文こそ、電子パネルで簡略化されているが、そこから空き席情報が見れて、注文するとウェイトレスが料理を運んで来てくれるとか、いやなんだそれ。
本当に学校なのか?広さでは揺るがなかった価値観が早速俺の足元を崩し始めている。あちこちで動き回っているウェイトレスさんも明らかに訓練されたプロの身のこなしだ。焦らず騒がず、ただし迅速で丁寧に配膳している。
「あはははは、確かに普通の人はびっくりだよね。でも真白ちゃんも諸星を名乗る以上は慣れないとダメだよ?諸星家は、現代の本物の貴族みたいなものなんだから」
「どっちかと言うと豪商だと思うけどな。ウチは分家だし、その辺は気楽に行っていいぞ?」
「あ、でもマナーにうるさい人は多いから、気を付けてね~?」
「音を立てて食べるなとか言われるんだよ、結構。昼ご飯はラーメンとかで私はいいんだけどな」
「はは、ははははっ、き、気を付けるわ……」
もう乾いた笑いしか出てこない。諸星姓を名乗っているのは、俺が名字を名乗らなかったのと、庇護下に置いていますよ、と言う明確な意思表示の表れが生み出した結果だが、うん正直間違ったかもしれない。住む世界が違い過ぎる。
頭がパンクしそうだ。
「ここで話してても仕方ないし、早く注文しちゃおうぜ」
「今日のメニューは何かなぁ~」
お腹がペコペコだと言って注文用の電子パネルに近付いて行った優妃さんと美海ちゃんの後を追って、二人の間から画面を覗き込むと、そのメニューの内容もまた破格だった。
メニュートップにはフランス料理。しかもコースメニューが見えた。流石に品数は3品と少な目だったけど
『トリュフの香りに包まれた、アスパラガスのエチュベ』
『戻り鰹のカルパッチョ風』
『高原豚のパテ アン クルート 蓮根のグレッキュと山椒の香り』
等などが見える。トリュフ……?戻り鰹……?高原豚……?
どれもこれも、元々高級食材だったり、地元の名産だったりと名の知れた物だがその全てが魔獣被害のせいで価格帯が更に跳ね上がった高級食材ばかりだ。
トリュフは海外産、しかも魔獣がはびこる山林に採りに行かなくちゃならないし、戻り鰹を始めとした海産物は、陸地以上に魔獣の宝庫になっている海での漁を命懸けで行うため、もはや一般市民ではお目にかかれない。今スーパーで出回っている物はどうにかこうにか内陸で養殖に成功した一部の魚介類だけだ。高原豚だって、名前の通り飼育環境が高原。つまり山の上だ。魔獣被害のあおりを受けて、こちらも当たり前のように高くなってしまった地元のブランド豚。
前菜でこれだ。メインなんて見たら卒倒するに違いない。
次だ次と視線を一気に下に飛ばして、目に飛び込んで来た中華料理の項目一番目が、別料金のフカヒレの姿煮スープだったことで、俺はいよいよ胃が痛くなって来たのだった。
こんなの、10年以上前の生活でも食べれませんよ……???




