奇妙な噂
何とか終わった。眼下に広がる魔法の暴力が、50はいただろう魔獣達を一匹残らず殲滅したのを、痛む身体に鞭を打って確認する。
パッシオにも念のために目配せをして確認すると、パッシオの魔力探知にも引っ掛かるものはないらしく、完全に今回の魔獣討伐は収束したようだ。
「はぁー、何とかなったわね」
安心して、脱力しきった俺はずるずると屋上にある金網フェンスに寄りかかる。
思った以上に血だらけだ、これは真面目にヤバい。失血でいつ意識を失ってもおかしくないだろう。
「何とかなったじゃないです!!なんでこんな無茶を!!」
治癒魔法を使う魔力も気力もない。変身を維持するのに精一杯な状態で、さてどうするかなと、働かない頭で考えているとアメティアが鬼のような形相でこちらに小走りでやって来た。
その後ろにはノワールもついて来ている。あまり子供に血みどろの姿は見せたくないんだけどな。
「お怪我治すね。アリウムお姉ちゃんよりは下手っぴだけど、私も出来るから」
「私も他の魔法に比べると不得手ですが治癒魔法を使います。よっと、これ以上動かないでくださいね」
「流石に、この怪我だと動きたくとも、動けないわね……」
アメティアによって屋上の床に寝かせられた俺は、二人から治癒魔法の行使を受ける。骨や神経に届くような深刻な怪我ではないけど、とにかく裂傷の数が酷いのと、血を流し過ぎた。
心配そうにのぞき込みながら治療するノワールと、若干咎めるような視線を向けながら同じく治療するアメティア。
そして胸元でジトっと後でお話がありますと言いたげなパッシオ。
まぁ、こんな捨て身の行為を目の前でされたら誰だって怒りたくもなるか。俺だって、目の前で見せられたら怒る。じゃあなんでやったのかと言われれば、あれが最善だったから、と俺は胸を張って答えるだろう。
答えた後にぶん殴られるとは思うけど。
「痛くない?」
「ありがとうノワール。おかげで痛くなくなって来たわ」
それでも、こうして最年少のノワールにまで心配を掛けてしまうのは、良心が痛む。もっと強くならなければいけないな。
二人掛かりの治療と負ってる怪我の一つ一つ自体は裂傷、切り傷ばかりなのもあって治療はとても迅速だ。
治癒魔法は苦手だと言っていたが、十分に扱えている。身体の痛みも大分取れて来た。
「もう大丈夫よ。後は自分でやっておくわ」
「あっ、ダメです!!まだ止血しかしていないところも沢山あります!!」
「大丈夫よ。貴女達は念には念を入れて魔力を温存しておきなさいな」
「ダメだよ、お姉ちゃん。まだお怪我治ってない」
グッと立ち上がって身体の調子を確認すると、うん、移動くらいなら問題は無さそうだ。
これくらい動けるなら大丈夫だと治療していた二人に伝えるが、二人は断固としてそれに応じない姿勢だ。参ったな。
魔力の残量にも変身維持を出来る程の量が無くなって来た。本当に魔力がすっからかんだ。
魔力を閉じる訳ではないので、男の姿に戻ってしまう事は無いだろうが、変身前に該当する女性の姿を諸に見られてしまうのは非常に不味い。
何せ、女性の姿でも小野真白としての身体的特徴はほぼ一緒だ。童顔、赤毛、暗い緑の瞳に色白な肌とクセっ毛。
今それを見られるのは問題ないかも知れないが、その後街中で同じ特徴を持つ俺がいることを彼女達が突き止めたら、俺にもしかしたらと言う容疑がかかるのは想像できる。
特に色白で暗い緑の瞳の赤毛でクセっ毛と言う、割と属性モリモリな外見的特徴が問題だ。珍し過ぎて、探そうと思えば探すことは普通に出来るだろう。
それはとてもまずい。
「いいから、私は先に帰るから、後はよろしくね?」
「ダメです!!せめて魔法庁でちゃんとした治療を、アリウムさん!!」
「ごめんなさいね」
引き留めるアメティアを振り払って、俺はその場から離脱する。
申し訳ないと思いつつも、これは本当に死活問題だから、譲れない。悲しそうな顔をするアメティアとノワールに心の中でひたすらに謝りながら、俺は少しおぼつかない足取りで建物の屋根を蹴った。




