奇妙な噂
ハーフ、と言うだけで朱莉ちゃん、紫ちゃん、碧ちゃんの三人はわっと盛り上がる
まぁ、珍しいのも分かるし、この国ではハーフ=日本人×西洋人の両親を持つ容姿の整った人達の総称、みたいな意味合いが強い
そうじゃないでしょ、って言う人も同時に多いけどハーフの俺が実際体感してる割合としてはその傾向はかなり強いと思う。別にハーフだからって何がある訳でも無いんだけどな
「だから凄い綺麗な顔立ちなんだ。言われればスゴイ納得」
「お父さんもお母さんもスッゴイ美形な人そうです」
「背は小っちゃいけどな」
納得する朱莉ちゃん、俺の両親を想像する紫ちゃん、その割には背が低いと言う碧ちゃん。それぞれ三様の感想を漏らしながら、成る程なぁなどと呟いている
とりあえず碧ちゃんは頭グリグリの刑に処す
「いだだだだだだだだだだっ?!」
「私の話題はその辺にして、そろそろお暇しませんか?あまり長居すると看護師さん達が困りますから」
俺に捕まってこめかみを拳でグリグリと締め上げられている碧ちゃんは誰もが無視をして、俺はそろそろ病室からの退散を提案する
何だかんだともう既に1時間は滞在している。お見舞いと言うのは、一般的に30分程度が良いとされているのもあるし、来客があると看護師たちも仕事がやりづらい
先程騒がしくし過ぎて注意されたのもあるしそろそろ帰るのが順当なところだろう
「元看護師に言われたらそうするしかないわね。じゃ朱莉、しっかり治すまで安静にしているのよ。朱里も、あまり気張らないようにね」
「ありがとうございます」
「ありがとうね、由香。紫ちゃんも碧ちゃんも真白ちゃんもありがとう」
全員が口々に一旦の別れの挨拶を済ませると、俺達お見舞い組は病室を後にした
痛みに悶えている碧ちゃんは俺と由香さんに引きずられている形だが
「元気そうだったね。あとどれくらいで退院かな」
「後は骨がくっ付いたらって言っていたから、治癒魔法と併用して一週間ってところね」
「んじゃ学校はギリギリ間に合わないかぁ。ちっと残念だな」
「それより、碧は夏休みの宿題は終わらせたの?あと5日で学校だけど」
「これから本気出す」
他愛のない雑談を交わしながら、病院のエントランスを抜けて外に出た俺達の話題はもう少しで明けるという三人娘の夏休みについてだ
俺はもう社会人だからあんまりその感覚が無い上に、今は絶賛無職な為、すっかり忘れていたが、そうか世間はというか学生はそろそろ夏休みが終わろうかと言う時期か
仕事に明け暮れる日々か、毎日をダラダラ過ごしているかの両極端な事をしていた俺からすると懐かしいというよりもはや新鮮ささえ感じる話題でもある
と言うか、碧ちゃんまだ宿題終わってなかったのね
そうしてのんびりと強くなって来た日差しの下を歩きながら、駐車場に停めてある由香さんの車へと近づいて行っていた時、紫ちゃんのスマホから着信音とバイブレーションが鳴り響いた
「!!はい、紫です」
【―かりちゃん。――の反応が――】
「はい、わかりました。場所は?はい、はい。すぐ向かいます」
そのスマホが鳴った瞬間、ピクリと紫ちゃんの表情が硬くなり、電話を取るとその声音は何とも言えない緊張感に包まれている
電話越しの相手の声も小さく聞こえるが、あちらもかなり緊張感のある声で喋っていた
「ごめんお母さん真白さん、ちょっと急用が出来ちゃった」
「分かったわ。先に戻ってる」
「碧ちゃん、行くよ」
「了解」
電話を切り、真剣な眼差しで由香さんを見つめた紫ちゃんは短くそう言うと碧ちゃんを連れてその場から駆け出して行ってしまう
由香さんも同じような面持ちでそれを見送っているのが見えた
そして、俺もこの場を離れる理由が出来た
「由香さんすみません。私も急用があるので、また後で伺います」
「えっ?あ、ちょっと、真白ちゃん?!」
由香さんが慌てた様に声を掛けるが、その余裕は無い
まだ精度こそ大雑把だが、使えるようになってきている魔力探知
その感覚に引っ掛かる魔力を感じ取った以上は見過ごすわけにも行かない。魔獣か、あの連中かは分からないけれど、行かなきゃいけないのは変わらないのだから
「『チェンジ!!フルール・フローレ!!』」
物陰に走り込んだ俺はすぐに変身して、その場から飛び出して行った




