獣の力を追って
ベンテと改造軍人に向けた魔法をが着弾するのを確認。ベンテが再び体勢を崩し、改造軍人もまた行動が鈍ります。
この間に色々と整理をしましょう。まずはベンテ。彼女を救うことはほぼ無理でしょう。出来ることと言えば、生き物としてまだ真っ当な形を保っているうちに倒してあげることくらいです。
厄介なのは超スピードの回復能力。一撃で、確実に、大火力の魔法を放つ必要があると言えます。
『砕裁のエストラガル』を含んだ改造軍人達はまだ救える可能性が残っています。具体的にはスタン君が帝国の『繋がりの力』である繋がりを断つ力と『神器』を帝王レクスから奪取することが条件でしょう。
そうすれば、『獣の力』から解放されますし、上手くいけば改造を施された肉体も元に戻せるかもしれません。
『繋がり』というのが物質的な部分も切り離すことが可能であれば、ですが。
或いは真広さんがいれば可能かも知れませんね。『医師』のメモリーは非常に限定的な能力ですが、特定の事象には特効とも言える程の特殊な性能を秘めたメモリーになりますから。
単純に、ベンテは倒す。改造軍人は助ける。ベンテは速やかに、改造軍人は時間を稼いで。
真逆のことを同時に二つこなさなければなりませんが、まぁ何とかなる範疇だと思います。少なくとも、無理だと思えるレベルではありませんね。非常に難しいだけで。
「リアンシは『繋がりの力』で『獣の力』を監視しててください。突然増えるようなことがあったらすぐに教えてください」
リアンシの、スフィア公国領主の『繋がりの力』は『繋がりを視る』能力。人と人の繋がりを視覚として捉える能力で、妖精が『獣の王』から発せられる『獣の力』にどれくらい繋がってしまっているかを見ることが出来ます。
それの量を監視することで、ショルシエ側の作戦もそうですが、人間界から来るはずの『人滅獣忌』の動向もある程度察知出来るでしょう。
あれも『獣の王』の一部、と私達は予想していますから。
「勿論。……頼んだよ」
頼んだよ、という言葉にはこの場をキチンと切り抜けて欲しいという希望と、友人でもあるエストラガルを救って欲しいという願いも込められているのでしょう。
飄々として掴みどころのない人のフリをしていますけど、結構義理人情に厚い人なんですよね。
恩は絶対に返す人です。そして、何より他人を見捨てられない人ですから。この人も領主でありながら、救えるものは全部救おうとするお人好しなんですよねぇ。
妖精界の王族の人達はみんなそういう人達ばかりで何と言うか、見ているこっちが心配になります。
「さて、まずは貴女をどうしましょうか」
結構、威力高めの魔法を何発も入れたんですが、もう立ち上がるまで回復されています。なんならほぼ全快ですね。見ているこっちは嫌になって来ます。
最大火力をぶち込めば、恐らく行けると考えていますがそれにはこちらも準備が必要。『詠唱魔法』の欠点は発動に準備がかかることですからね。
詠唱を途中で止めてしまうと魔法そのものが失敗します。言葉で描く魔方陣のようなものなんです。
だから、確実に時間を作る必要があります。時間で言うと3分。
短いと思うじゃないですか。この3分という時間を戦いの中で捻出するのは相当にむずかしいんです。
何せ、高度な魔法戦になればなるほど、1秒の間に何発もの攻撃が来ます。何なら数秒の間に攻防が何度も入れ替わるなんてこともザラです。
そんな戦いの中で、3分間の時間を作るというのがどれだけ難しいか。こればかりは実際に時計を測りながら実感するしかないことなんですよ。
何せ当事者の私達からしても10秒が体感だと1分くらいに感じることが多いですから。
「アメティア、エストの様子がおかしい」
こうして考えている時間も数分のことに感じますけど、実際に測ると10秒くらいの話なんですよね、と思っているとリアンシから声がかかる。
エストラガルの様子がおかしいとのことだったけど、視線をちらりと向ければ確かに様子がおかしかった。
彼が部下の改造軍人を戦闘不能にしているのだ。これをおかしいと言わずに何をおかしいというのだろうか。




