獣の力を追って
『砕裁のエストラガル』ら帝国兵達を相手にし続けるのは骨が折れる。
何せ、妖精界でも指折りの精鋭揃い。それがショルシエの手によって改造されているのだから、いくら私達でもこれを複数相手にするのは至難の業だった。
「流石に厳しいですね」
「これだけいるとね」
数にすると20人ほどか。大したことないように聞こえるかも知れないけど、20人もいればプロの格闘家でも素人に勝てる術がほぼ無いと言っていいくらいの人数差だ。
それがプロ同士ともなれば更に一方的な戦いになる。
「お優しいことだ。この後に及んでコイツらを救おうというんだからな」
更に状況を難しくさせてるのは、私とアメティアにとって目の前の軍人達を手にかけるわけにはいかないということだった。
この緊急時に何を悠長なことを言っているんだ、と言わるでしょうね。
でも、それでも私達は彼らを殺して先に進むという選択肢は無い。
何故なら、私達は彼らと戦争をしに来たのではなく、ショルシエを討ち倒しに来たのだから。
その過程で帝国の人々を殺していい理由は無い。
ショルシエを倒したその先のことを見据えれば、それが最も望ましい以上、私達がそこを妥協すれば、妖精界は本当の意味で戦乱の世の中に陥ってしまうだろう。
もちろん、他の意図もあるわけだけど。
「私達は手段も目的も選ぶのよ。誰かさんと一緒にしないでくれる?」
「相変わらず達者な口だ。しかし厄介な障壁魔法のせいで、こちらの戦力も半分程度扱いだから、達者になるのも無理はないが」
幸いなことに約20人の改造軍人を一斉に相手しているわけじゃない。
大体半数の人数は私の障壁魔法で関節を押さえ込んで動けなくしている。
本当なら全員を拘束して、直接目の前にいるショルシエと戦いたいところだけど、そうもいかない。
「らぁっ!!!!」
「ちっ」
『砕裁のエストラガル』と呼ばれている帝国一の騎士であり、帝王レクスの懐刀でもある彼の操る属性は破壊属性。
文字通り、あらゆるものを破壊することに特化した属性で私の障壁魔法の天敵のような属性だ。
彼に近付かれるだけで障壁魔法は崩れて行くし、殴られようものなら粉々に砕けてしまう。
『砕裁』と言う異名が付くほどの腕前は改造されてしまっても変わらず。
つまり、彼がいる限り全員を拘束することは出来ないのだ。
彼が拘束した味方に近付くだけで、障壁の拘束は弱まり、その破壊属性をまとった拳を障壁に触れさせるだけで拘束はたちまち解除されてしまうのだから。
おかげで彼は常に自由に立ち回りながら、私達と戦いつつ部下の騎士達を拘束した端から解放して包囲して、また拘束された部下を解放して包囲するを繰り返す。
それだけで私達にとっては嫌な波状攻撃を延々と繰り出すことが出来てしまうわけだ。
「魔力にはまだ余裕ある?」
「もちろんです。私の魔力量だって相当自信があるんですから」
「……アリウムはともかく、アメティアがそれについていけるのはなんなんだか」
と、危機的状況を装っているけど、実際のところは私達にとって非常に都合の良い状況が出来上がっていた。
後ろで何かボソボソ言っているスフィア公国領主のリアンシも含めた私達3人の役割は時間稼ぎ。
王族2人とその伴侶というショルシエからすれば恰好の標的である組み合わせで注意を引き、時間をかけさせようというのが、私達の作戦目標。
その目的は他の面々が敵の各個撃破をする時間を確保すること。
真広の『人滅獣忌 白面金毛の九尾』の解放とショルシエとの合流。
そして何よりスタン君による帝国の『繋がりの力』と『神器』の奪取。
その時間を作るのが私達、というわけだ。




