決意と覚悟
「お、来たな。真広、だったか? 千草と要から名前だけは聞いてるんだ」
「……ってことはアンタは2人が師事してたっていう鬼の方か」
「察しが良くて助かる。俺は郁斗。間 郁斗。知っての通り、鬼だ」
そう言って額にある角を指差すのは、千草と要から聞いていた2人の師匠の内の1人である間 郁斗だ。
高嶺 悠が実戦的かつ、主に千草の剣術の指導をしていたのに対して、間 郁斗は主に妖術の扱いを要に手ほどきしていた、と聞いている。
座学面でも優秀で、感覚派の高嶺 悠と理論派の間 郁斗というバランスの良いコンビっぽい、という印象を受けた覚えだ。
「どうしてアンタがここに?」
「簡単さ。俺が仕掛けたことだからな。ちゃんと、見届けてやらないとな」
俺の問いにそう答えた間 郁斗の視線を追うと、そこにいたのはボロボロの姿で地面に胡坐をかきながら微動だにしない高嶺 悠の姿だった。
手にしている刀も酷く刃こぼれしていて、もう武器としての価値は無いだろう。
確か3年前、千草が十三さんに頼まれて笠山という地に返したそれだ。今や見る影もないが、名刀だったことは容易に想像がつく。
「……生きているのか?」
「ギリギリ、な。だが、長くは無いだろうな。身体的ダメージもそうだけど、魔力を使い過ぎてる。エルフには致命的だ」
「そうか」
念のために聞いたが予想通りの答えが返って来た。それはそうだろうな、という感想しかない。
それくらい、無謀で無茶苦茶な戦い方をしていた。改めて思い返しながら何とか言語化するとするなら、ノーガードで常時フルパワーの殴り合いを限界稼働時間を超えて運用した、ってところか。
どんなに高性能だとしても、想定をはるかに超える運用をすればどんなに頑丈に作っても壊れる。それは道具だろうが肉体だろうが変わらない。
そういう使い方は大抵、修復不能な壊れ方をするんだ。道具の場合は壊れて、肉体の場合は死ぬ。
高嶺 悠はそういう戦い方をした。だからこの結末は自明の理で、分かり切っていた結末。そんな戦い方を普通はしないが、この男はそれをしに来た。
「……なんだ、2人ともいるのかい?」
「あぁ、いるぜ」
「そうか。1人で逝くつもりだったんだけど、こうして逝くってなったら看取られるってのは嬉しいもんなんだね」
辛うじてまだ死んでいないだけの肉体は既に視力などを失っている様子だ。聴覚はまだ残っているんだろう。確か、人間が死ぬとき最後まで残っている五感は聴覚だと聞いたことがある。
だから、最後まで声をかけ続けることには大きな意味があるんだと真白が力説していたことを思い出しながら、2人のやり取りを隣で眺めるしか、俺には出来ない。
また、俺は誰かの命を救えなかった。誰かの命を消費して、ここに立っているのかと思うと何かを言う資格は俺には無かった。
「真広、気負わないで欲しい。元々、俺は俺のエゴでここに来たんだ。最初から死ぬつもりで来て、望み通り1人で無茶をして死ぬだけなんだ。君が何かを背負うことは無いよ」
「だが……」
「無いんだ。俺は死に場所を探していた。ずっと、俺はいつか死ななきゃいけない存在だったから。でも、それならせめて誰かを、多くを救える方法で死ぬべきだって思ったから、ここを死に場所に選んだ。君が来たのはただの偶然だ。だから、君が俺の死に責任を持つ必要は無いんだよ」
俺が自責の念を持っていることを、高嶺 悠を生かす選択が出来た可能性が0では無いことを悔やんでいることを察したらしいこの男は、努めて普段通りの声音で俺に諭すように言葉を発する。
あくまで、これは高嶺 悠の特大のエゴであると。俺はたまたまそこに居合わせただけだと。
「……詳しく話すと長くなるから言わないが、高嶺 悠は強すぎる。特に『原始回帰』を会得した世界線のコイツは下手をすると世界そのものの破壊者になりかねないんだ」
「『獣の王』と同じような存在ってことか?」
「そんなところだ。『獣の王』が外から来たエイリアンだとしたら、高嶺 悠はこの世界の特異点だ。周囲の環境で善にも悪にもなる。善なら世界を救う主人公だが、悪に転がれば世界を滅ぼす魔王になる」
「で、この世界の高嶺 悠は……」
まだギリギリ魔王化してない存在ってところだな。と間 郁斗が口にする。
まるで爆弾だ。しかも世界を滅ぼす規模感だと言うんだから恐ろしい。そんな可能性を個人で保有している異常性と危うさ。
それを今ここで処理をした、簡単に言うとそういうところなんだろう。だとするなら、間 郁斗は高嶺 悠という爆弾を処理する専門家、と言った感じか。




