決意と覚悟
ここしかない。言葉も発さず、俺とウィスティーはその場から飛び出して、今すぐ出来るありったけの攻撃を構える。
「どっりゃぁぁぁぁっ!!」
高嶺 悠の渾身の一撃により、完全にガラ空きとなった『人滅獣忌』をウィスティーが下から掬い上げるようにして打ち上げる。
『固有魔法』を使わないのは威力の調整だろう。再三言うように俺達の仕事は『人滅獣忌』を倒すことじゃなく、敗走させて『災厄の魔女』ショルシエのところに合流させること。
「お前の獣性、ここで切除させてもらう!!」
だから俺も大技ではなく、『医師』のメモリーの力を全開にして、『人滅獣忌』の懐に飛び込んでいく。
頭を打ち上げられたことでガラ空きなった胴体に飛び付いた俺はその右手を深々と『人滅獣忌』に突き刺した。
「ア、ギャァァァァァァッ?!?!」
それは流石の『人滅獣忌』にとっても耐えがたい苦痛だったらしい。
高嶺 悠とウィスティーからそれぞれ受けた痛撃で殆ど意識が無いように見えたが、俺が腕を突き刺した瞬間に金切り声を上げて暴れ始める。
なりふり構っていられないという様子だ。さっきまでの強者の余裕なんてものは無く、まるで歯医者に来た子供が泣きじゃくっているようにも見える。
それもそうだ。今、俺が掴んでいるのは肉だとか臓器だとかじゃない。
『人滅獣忌』の中にある、『獣の力』そのものだからな。
コイツを文字通り、切除する。外科手術で悪性腫瘍を摘出するように。
世界にとって害悪な獣性そのものに俺はメスを入れているというわけだ。
「くっ……、これでっ、どうだ!!」
暴れる中で必死にしがみつきながら、右手を動かし、『獣の力』の切除を試みる。
時間で考えれば、粘った方だろう。半分くらいは引き千切るようにしながら俺は無理矢理右手を『人滅獣忌』から引っこ抜き、それを片手に距離を取る。
「ウィスティー!!」
「ぶっ壊すのなら、任せなさい!!」
引き抜いたそれは臓器にしては不明瞭で、何かしらの力だとしたも具体的過ぎるように思える。
ただ分かるのはこれが『獣の力』の塊だということ。
名前だけを呼んで、意図を理解したウィスティーが掴んでいる『獣の力』目掛けて斧槍を構える。
「『固有魔法』ァッ!!」
「ーーッ!!」
何をされるのかを察した『人滅獣忌』が更に暴れようとするが、それを『不動』のメモリーの能力で地面に押さえ付け右手の『獣の力』を空中へと放り投げる。
「『巨神殺し』!!」
投擲された斧槍が破壊属性の魔法を纏って『獣の力』へと迫り、貫かれたそれは、跡形も無くボロボロになって崩れて行く。
恐るべし破壊属性。文字通り、クリティカルな一撃さえ決める事が出来れば『獣の力』すらこの有り様だ。
そのうち、『獣の力』だったものは山の吹き下ろしに吹かれて風に乗って何処かへと消えて行った。
ああなれば『獣の力』だろうがなんだろうがただの塵芥だ。
何に害することも無く、ただ自然の中に分解されて行くだろう。
「グルァッアァ!!」
「うおっ?!」
地面に下敷きにして押さえ込んでいた『人滅獣忌』が再び暴れ出し、俺はパッと手を離してその場から離れる。
『獣の力』の大部分を失った『人滅獣忌』は俺達を視界に収めることすらせずに猛スピードで逃走を試みていた。
「私が追う!! シャドウは高嶺さんを!!」
「任せた!!」
後は『人滅獣忌』が妖精界にいる『災厄の魔女』ショルシエのもとに戻るかを見届ける必要がある。
その役割はウィスティーが率先して受け持つようだ。流石にタフだ。アレだけの死闘を繰り広げた後でも敵を追う体力と気力があるんだからな。
俺も出来ないわけじゃないが、ウィスティーも気にかけている高嶺 悠のもとに向かうのを優先する。
最後の特大の一撃以降、今度はまるで気配すら無くなったかのように音沙汰も無くなったのが単純に心配だからだ。
死ぬつもりで来たというあの男には聞きたい話が山程あるしな。
そう思い、激戦によってすっかり地形すら変わってしまった石ころと岩だらけの斜面を歩いているとその姿を見つけることが出来た。
ただし、その隣にはもう1人の男の影を携えて。




