決意と覚悟
人間では元々ないと感じていたが、やはり人間ではなかったらしい。尖った長い耳から察するにエルフ族か何かだ。
にしては魔力量が低いのが気になるが、とにかく高嶺 悠の本気に俺達は目を剥くことになる。
「どう見る、ウィスティー」
「どうもなにも、ないよ。私が見た中でもトップクラスの戦士だよ。あんまり信じたくないけど、師匠より凄いかも」
ウィスティーの師匠は最初の10人の魔法少女でも最強と謳われた『絶剣の魔法少女 グランディー』だが、それすら凌ぐという評価に俺も震える。
グランディーを実際に見たことが無い俺だが、弟子のウィスティーがそういうなら、その可能性が高いんだろう。
なんせ、刀一本で『人滅獣忌』を真っ向から勝負出来ているのは正直イカれている。
「頭を落とせ――『椿』!!」
短い呪文と技名というシンプルな構造の高嶺流の技はシンプルであるが故にとてつもなく高度な技術を要求してくる。
ウチの従者たちの一部が習得しているし、千草からも少しレクチャーを受けたことがあるが一昼夜でその辺のヤツが習得できるような技では当然無い。
短い呪文と技名はともかくとして、その技の一連の動作が術式として作用しているという術式体系は超特殊と言って差し支えない。
それを実践の中にぶち込んでいくのがどれだけ難しいかはただレクチャーを受けただけでは高嶺流の一端にも触れられていない俺自身が答えだろう。
「グルァッ!!」
「廻れ――『向日葵』!!」
一撃必殺の高嶺流を避けて爪を振り下ろす『人滅獣忌』に別の高嶺流の剣技を当てて相殺する。
アレだって意味が分からん。何かしらの防御手段はともかくとして火力で正面から渡り合っているのがわからん。
ウィスティーのような破壊属性のような高火力の属性じゃない。少ない魔力で発動しているハズの魔法剣が『人滅獣忌』の攻撃と同等の火力を出しているのが本当に理解の範疇を飛び越えている。
魔法の威力は込めた魔力に比例するのが基本だ。精神的な強さが左右するは左右するが、どちらかというとそれは魔法の術式強度的な話であって、威力が飛躍的に上がる訳じゃない。
火力自慢のシャイニールビーも魔法の指向性と込めている魔力、属性が組み合わさった結果であって、魔法戦で負けない理由は魔法のぶつけ合いで魔法が負けないからだ。
高嶺 悠の魔法剣が『人滅獣忌』の攻撃と渡り合える理由が見つからない。
「目を離さないでよ。一瞬でも話したらタイミング逃すわよ」
「わかってる」
目の前で繰り広げられている戦いは俺にとって高度過ぎる。レベルが違う。飛び込んで行ったら邪魔になるだけだ。
言語かすら、難しい。何をしているのかがわからないからだ。
ただわかることは圧倒的な剣技で追い詰めていく高嶺 悠と有り余るパワーを振り回しながら攻めの姿勢を崩さない。
苛烈すぎる攻防。いや、攻撃と攻撃のぶつけ合いと言った方が正しいか。
あんな戦い方、長い時間保つワケが無い。何かがどこかで限界を迎える。絶対に破綻する戦い方で、それが先に来るのはどう考えても高嶺 悠の方だろう。
「なんで、あんな戦い方を……。私達がここに来なくても来るつもりだったんだよね?」
「さっきの言い分からするとそういうことだろうな。何かしらの目的があって、そもそもにここに用事があったんだ。それが人間界に不利になるようなものではないのだけはわかるけどな」
「それは確実だね」
短い時間しか一緒に行動していないし、身の上を知る訳ではないが人間性くらいはわかった。
少なくとも悪人じゃない。善人だ。しかもとびっきりのな。
「天に乱れて華と舞い、ひらり落ちては花と散れ」
そんな奴が死ぬためにここに来たと言っていた。まるで死に場所を求めているかのような物言いにただただ俺達は困惑するしかなく。
「散りゆく花は一時の華、堕ちて乱れる幻想の華!!」
その命を燃やすような戦いぶりには何かを感じざるを得ない。俺がそれを今すぐに言語化出来る程、頭の回るような人間では無いのが悔やまれる。
「『天華乱墜』!!」
分かったことと言えば、花吹雪のような魔力を散らしながら放たれた魔法が『人滅獣忌』の身体を貫いたってことだけだ。




