決意と覚悟
大きな差は頭の良さと戦闘スタイルだろう。『人滅獣忌』の方が頭が良くて肉弾戦が主体だ。普通に考えると魔法が主体の方に頭が良い方になると思うんだがな。
そこまで細かいことを考えていたらキリがない。それに頭が良いんじゃなくて、勝負勘や野生の勘的なモノが優れている可能性だってあるしな。
とにかく、こっちの方が戦いは得意だってことは確実だ。
「ふぅん。じゃあ『獣の王』の戦闘力を主だって得たのが『人滅獣忌』ってことなんじゃない?」
迫りくる魔法を弾きながら、湧いて出て来た情報について仮説を立てる。
呑気そうに聞こえるが、地面は抉れるわ爆ぜるわで大騒ぎだ。当たり前の顔して尾の追撃も来るが、三人で一か所に集中することで会話する時間を確保する。
ウィスティーの仮説は『人滅獣忌』は戦闘が得意になるように能力を分割したというものだ。
「征服の段取りがある程度出来てた妖精界より、1から征服しなきゃいけない人間界の方に戦闘能力に優れている側を寄こしたって考えれば、まぁまぁ自然だね」
「成程な」
「それをまんまと封印されてたわけだ。そりゃ魔力のバケモノのクセに回りくどい方法を選ぶわけだよね」
それが正しいとなれば、ざまぁ無いなと思わざるを得ないな。同時にこの任務をたった3人でこなそうというのは更に無謀さを増しているように思う。
何せ、戦闘能力で見たら妖精界で包囲網を敷いている『災厄の魔女』ショルシエよりも上の可能性があるわけだからな。
いよいよ増援を前提にした方が良いんじゃないかと脳裏によぎるがそんな時間は無いし、いつ来るかもわからないのを期待してたら力尽きて死ぬまでの時間の方が短いだろう。
「徐々に力を取り戻しているのは確実な以上、短期決戦を仕掛けざるを得ないのは変わらないか」
「でもどうする? 不意打ちが都合よくこれ以上通用する相手じゃないよ」
まさにジレンマだ。3人という少人数では現状色々と難しい。最初は俺とウィスティーの2人だけでやろうとしていたのは完全に無謀な挑戦であり、高嶺 悠が手を貸してくれてなかったらとんでもないことになっていたのは確実だ。
だから時間を掛けざるを得ないが、時間を掛ければ掛けるほど『人滅獣忌』は本調子を取り戻していく。
故に短期決戦でしか勝機は見出せないが、この人数では……、という最初の話にループする。
まぁ、詰みだ。状況を間延びさせるのが精一杯で今の俺達ではこの任務を達成することは無理筋にしか見えない。
「俺が隙を作るよ。2人は下がってて」
行き詰まる俺達の中で唯一、声色を変えることなく高嶺 悠が提案する。そのとんでもない内容に眉をひそめたのは当然ウィスティーだ。
「はい? 何言ってるの? 死ぬ気?」
「あぁ、そうさ」
死ぬ気か? そう聞かれて高嶺 悠は首を縦に振った。肯定だ。コイツは今、死ぬ気だと答えた。
何を言っているのか、一瞬分からなかった。命を投げ出すという言葉は俺達の中で絶対のNGワードであり得ない発言だったからだ。
自己犠牲の魔法少女だからこそ、必ず生きて帰るのが俺達の、特に真白の信条だ。この場にアイツがいたら胸ぐら掴んで怒鳴っているだろうなという全く関係のないことだけが先に脳裏に浮かぶくらいには俺は混乱している。
「俺は元々、ここに死にに来たんだよ」
衝撃的過ぎる発言に息を呑む俺達。死にに来た? どういうことだ、理解が本当に追いつかない。それでも身体は動くんだから大したもんだ。頭は真っ白になりながらも、『人滅獣忌』の攻撃はなんとか捌き続けているが、3人の間隔は徐々に狭まっていて、俺達の中で動揺が広がっていることを示している。
「ごめんよ。これは俺のエゴなんだ。やっと命を賭けて戦える敵が現れたんだ。これをどうにかするのが僕の最後の役割で贖罪なんだよ。じゃなきゃ、俺は笠山の地から出られない契約だからね」
「待ちなさい!! どういうことか説明して――」
「それには時間が足りないかな。とりあえず、本気出すから下がっててね」
ぞわりと背中に悪寒が奔る。高嶺 悠の放つ魔力と気配の質が変わる。元々人間のそれとは違う気配だったが、その濃度が更に高まった感じだ。
コイツは、確か。
「『原始回帰』」
千草が会得した特殊能力と同じ、魂のルーツを引き出す技だ。




