決意と覚悟
大量の魔法を前に棒立ちになる俺と高嶺 悠があっという間に飲み込まれた瞬間、『人滅獣忌』の真下の地面が盛り上がる。
驚いて飛び退ろうとした『人滅獣忌』をウィスティーが上から斧槍を振り下ろしてこれを妨害。
「『六道九想・鉄紺阿修羅』!!」
「露と零れろ――『梅』!!」
盛り上がった地面から飛び出した俺と高嶺 悠の2人で渾身の不意打ちを叩きこんで見せた。
俺は土属性で強固に固めた両拳の乱打によって、高嶺 悠はひと振りで細かい斬撃が全方位に飛んでいく剣技で。
共通しているのは乱れ打ち系の明確な目標を据えて放つ技ではなく、とにかく手数を優先した技だってことだ。
理由は単純明快、必ず攻撃を当てるためだ。なにせ狙ってこそいるが避けられる可能性も十分あるし、何より地中から飛び出した直後に正確に急所へ攻撃を当てるのは至難の業。
広範囲に手数をぶつける技なら、多少狙いがズレても当たる可能性が高くなるし、外してもカウンターに対する防御にもなる。
「ガギャアアァァぁぁっ?!」
そうして、俺達はこの賭けにようやく勝ったわけだ。1時間かけて、ようやくまともな有効打。
この戦いが如何に苛烈で難しいかがそれだけで伝わるだろう。
お互いに決定打に欠ける中で、不利であるハズの俺達が先にダメージを与えたことの意味は大きい。
「ようやく一撃か」
「土で作った分身は思った以上に効果的だね」
「次からは通用しないだろうがな。でもまぁ、多少のハッタリには使えるか」
何をしたのかと言われれば、至って単純。ウィスティーと『人滅獣忌』がやり合っている最中に出来るだけ精巧な土の人形を用意して、それに攻撃をさせただけだ。
『人滅獣忌』言えども、S級魔法少女とやり合えば意識はそっちに向きやすい。ましてや果敢に攻めて来るのはそのウィスティーだ。
ヤツからすれば最大の脅威に最も集中力を割きながら、合間合間で俺達を牽制するのが最も楽な戦い方だ。
大量の魔力を有する『人滅獣忌』からすれば、魔法を雑に放つだけで俺達なら牽制出来るし、出来た。
それを逆手に取ったカタチだ。実際はウィスティーが囮で俺達が本命。
一時間かけて張ったブラフにようやく引っ掛かってくれたことに少し安心する。これが一般的な魔獣ならおそらく通用していない。
あっちはただの野生動物が凶暴化してるだけだからな。知能に関しては、元になった動物以上になることは非常に稀だ。
頭が良いからこそ、引っ掛かる作戦ってわけだ。
「グルルル……っ!!」
「おぉ、怒ってる怒ってる。格下に傷つけられるのが一番プライドに障るもんね」
「ここで大暴れしてくれた方がやりやすいんだが……」
「そうはいかないねぇ」
腹下に潜り込み、胸や足に確実にダメージは与えられた。身体から零れる魔力の燐光がその証拠。
こうして実際に相手をすると『人滅獣忌』が魔獣じゃないことがわかるな。魔獣だったらあれだけのダメージを受けたら流れ出るのは血だからな。
そうじゃなく、ヤツから流れ出ているのは魔力。妖精や獣を知る俺達だから判別が効くが、他の魔法少女ならこの差に気が付けるかはわからんな。
ましてや、当時コイツを相手取っていた最初の10人の魔法少女はそれこそ10年以上前、更に言えば魔獣に対しても、魔法に対しても人類の知見が浅かった時代の話だ。
これを見て、魔獣じゃないと判断できる魔法少女はいなかっただろう。『千里眼の魔法少女 ヴェルタ―』も情報の検索は出来るが、自分で調べなきゃ情報は出て来ないという弱点があったらしいからな。
全てを知れる魔法ではなく、この世の全てにアクセス出来る魔法だと聞いている。スケールがデカすぎてもはや想像の範疇外だが。
簡単に言えば、『人滅獣忌』が魔獣でないことを知るには、『人滅獣忌』の正体について検索しなければならない、というわけだ。
得られる情報が膨大だからこそ、調べなきゃいけない情報はピンポイントで得る必要性があった。
魔法の発動そのものにも制限があったというのも『千里眼の魔法少女 ヴェルター』改め、雛森さん本人の証言だ。




