獣
焼け焦げた地面をザリザリと音を立てて進んで行くと上半身だけが転がっているアルツを発見した。
既に身体の一部が魔力の燐光になって、崩れ始まっている。
これは妖精が死ぬ時に見られるのと同じ光景だ。
魔力の塊が命を得たのが獣だとするなら、心あるいは魂を得たのが妖精ってところかしらね。
根本的には同じ生き物。だから死に方も一緒なのね。
「何故、だ……。なんで……」
「まだ息があったの? 流石にしぶといわね」
ほっといても死にそうだけど、確実に死ぬところを見るまではここにいるかなと思っていたら、まさかまだ意識があるとは思ってなかった。
6本尾にもなるとタフなのね。仕方ないから、トドメを刺しますか。
腰に下げた剣の柄に手をかけ、引き抜こうとするとアルツは腕だけで身体を動かして私の足に掴みかかる。
ここに来てまだ対抗するのかとすぐに剣を引き抜いた私にアルツの慟哭が届く。
「何で僕が死ななきゃいけないんだ!! 都合よく使われるために生まれて、使い勝手が悪いから処分されるのか?! ふざけるな!!」
それを聞いて、思わずピタリと振り上げた剣が止まった。
アルツの言い分に理解を示せないわけじゃない。
むしろ、シンプルに同情する。
分身体はショルシエの都合で生み出された忠実な僕だ。使うも捨てるもショルシエ次第。
機嫌ひとつで明日の朝日を拝めるかもわからない。
わかっていることと言えば、分身体は使い捨ての消耗品扱いなことと、この戦いが終われば間違いなく不要品として処分されること。
何をどうしても、アルツを含めた分身体が1年後に何処かで生きている事は無いでしょうね。
負けたら私達に殺される。勝ったらショルシエに処分される。
都合よく生み出された命は都合のいいように消費される。考えなくても簡単に想像がつくことよね。
それに関しては本当に同情するわ。コイツはコイツなりに明日を生きるために必死に足掻いたんでしょうね。
「嫌だ、死にたくない!! 死んでなるもんか!! 僕は必ず生きて、自由になるんだ!! そのためなら何だってしてやる!!」
「アンタは本当にバカね。そんなんだから、にっちもさっちも行かなくなるのよ」
だけど、致命的にやり方が悪かった。
コイツは結局、獣のままだ。私達を受け入れることも、ショルシエと決別することもしなかった。
ただただ独善的に自分だけが得をするように願って、行動した。
それじゃ私達はコイツを敵だと認識するし、この先も敵として排除する対象だ。
仮に同情心からこの場を見逃してもコイツが辿る結末は何一つ変わらない。
コイツが自分の考え方を変えない限り、助かる道はどうやったって無い。
「アンタが助かる方法はたったひとつしかなかったのよ」
「お前が知ったような口をきくな!! 必ず、必ずお前達を殺してやる……!! 僕が『獣の王』になれば、お前達なんてーー」
サクリと剣が頭と胴体を斬り離した。
アルツを生かしておく理由は無い。さっきまで大騒ぎしていた通り、コイツを生かしておいても第二のショルシエが生まれるだけ。
『獣の王』を滅ぼすのが今の私たちの仕事だ。それなら、コイツはここで殺すしかない。
「……アンタがほんの少しでも、妖精になりたいって気持ちがあれば、生きられたのよ。ただ、助けてくれってその一言があれば」
そうすれば、私達はアルツを助けた。こっちにはアリウムがいる。
アリウムの『繋がりの力』は繋ぐ力。人と獣を繋いで心を共有して、妖精にするための力。
それが分かるまで時間はかかったし、たらればの話でしかないのは、それはそう。
でも、アンタがもしそういう素振りを少しでも見せていたら、きっと私達は相談し合った上でアンタを受け入れていたわ。
「1人で生きられるわけ、ないでしょ」
後味の悪い結末に口を結びながら、私はリオに乗ってその場を後にする。
そこにはもう、何も残っていなかった。




