獣
Slot Absorberに差し込むために『天幻魔竜』のメモリーを手にし、更に『獅子』のメモリーにリオを呼び込もうとした時、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
良くない何かがメモリーに狙いを定めているのを感覚的に理解して、すぐにメモリーを引っ込めるとその悪寒は収まった。
「ちっ、『権能』ね」
「ご明察!! エネとジィオに聞いたか?」
魔法じゃないそれが何なのかはすぐにわかった。分身体が新たに手に入れた特殊能力で『権能』と連中が呼んでいるモノだ。
魔法じゃなくて、純粋な異能力。魔法も広い意味じゃ異能力なんだろうけど、魔法とは違うルールの能力ってところかしらね。
アイツら分身体は神様を気取って『権能』なんて呼んでるけどね。
「おおかた、奪う能力ってところでしょ」
「流石は最強と名高い魔法少女だ。如何にも僕の『権能』は『強奪』!! お前の力、その全てを奪ってやろう!!」
「やれるもんならやってみなさい!!」
剣を抜き、空を薙ぐとその軌道をなぞる様に炎が迸る。別にSlot Absorberとメモリーを使えないからと言って弱いわけじゃないのよ。魔法少女舐めんな。
強化変身をしなくたって、その辺の魔法少女や妖精よりは遥かに強い自負ってのはあるし、分身体だからって推し負けるわけでもない。
その証拠にカトル、もといアルツは防御行動をとって私の攻撃を防いでいる。
防ぐってことは私の攻撃はダメージになるってこと。だったら、勝てる理由にはなっても負ける理由にはならない。
そのままリオと一緒に一気呵成に攻め込む!!
「――はぁっ!!」
「ガウッ!!」
速攻、挟撃。速さと爆発力を生かしたいつも通りの連携攻撃。このいつも通りに攻撃が出来るって言うのが一番重要。
訓練通りの動きが本番で出来ているってことだからね!!
暴っと荒れ狂う炎が剣の切っ先とリオの爪から放たれる。斬撃でもあるし、炎でもあるそれは半端な防御の通用しない火力特化の一撃。
アリウムですら防御じゃなくて回避を優先する攻撃力が私の強みだ。
「怖いなぁ。メモリーを使わなくてもそれだけの火力を出せるなんて。君、本当に人間かい?」
「獣のクセに察しが良いじゃない」
こっちの攻撃を避け続けるアルツは私の攻撃能力がメモリーによる強化変身をしなくても大して変わらないことに疑問を抱いたらしい。
ショルシエの分身体のクセに頭が良いわね。大体、分身体ともなって来ると慢心が全面に出て来て、こっちの分析を怠る。
それが分身体最大の弱点というのが私達の共通認識だ。少しばかり、魔法や戦い方に一工夫してやるだけで、こっちの真意や戦術を隠せる。
表面上のやり取りしかこいつらは見ることが出来ない。ショルシエ本体ともなるともうちょっと深読みしてくるんだけどね。
でも、コイツはこっちの手の内を読んで来ている。他の分身体とはコイツは少し違うみたいね。
だからって手段を変える必要なんて無いけど。
足裏を爆発させて跳び上がって羽を広げる。私はフェイツェイと違って、Slot Absorberとメモリーを使わなくても飛行能力を持っている。
空中に跳び上がった理由は簡単、逃がさないため。
お腹の中から沸き上がった魔力が身体を駆け上がって行く。喉を膨らませ、口から灼炎が放たれる瞬間にアルツも私が何なのかに気が付いたらしい。
「ドラゴン……!!」
「丸焼きになりなさい!!」
ドラゴンたる象徴。ブレスを上空から地面に向けて放ち、這うように燃え広がったブレスが地面をぐずぐずに焼き焦がしていく。
上から下に放つことで逃げ場を奪うのはドラゴンブレスの常套手段。圧倒的な力を押し付けるのがアンタ達だけの専売特許だと思ってるのなら大間違いよ。
城の一角を完全に焼き尽くした一撃は地面どころか周囲の石の壁を焼き溶かしてボロボロになって崩れたり、赤熱してガラス状になっている。
「ママすっごーい!!」
「メルもそのうち出来るようになるわよ」
ポーチの中でドラゴンブレスの様子を見ていたメルドラだけがこの緊迫した空気の中で無邪気に喜んでいた。




