獣
臭いを追い、魔力を追い、メルドラの獣の力の探知能力も使ったことでカトルの追跡は難なく出来た。
まるで警戒されることも無い、真っ直ぐに自分がいる場所までエネとジィオの死体を回収しているようで、ただ移動しているモノを追いかけているだけで辿り着けた。
「メル、見ちゃダメ」
そこで見たのは、異様な光景だった。
共食い、って言えば良いのかしらね。カトルは私達に不用意に背を向けながら、一心不乱にエネとジィオの死体を貪り食ってるんだから。
「――っ。はぐっ」
がつがつとエネとジィオだったモノにかぶりつき、その顎と牙で引きちぎってから咀嚼して飲み込んでいく。
サバンナで獲物に群がるハイエナみたいな貪欲さ。1週間ぶりに餌にありつけた肉食動物のような脇目もふらない。
妖精や獣には食事は基本的に必要が無いハズだ。魔力で全て事足りる以上、特にショルシエや分身体のような存在は食事に価値を感じることは無いと思う。
それだっていうのに仲間だったものを貪り食っている光景に私は思わず足も思考も止まってしまった。
「……アンタ、何してんのよ」
「んん? あぁ、魔法少女か。お見苦しいところをお見せした」
絞り出した声でカトルに話しかけるとエネとジィオを喰い終わったのか、殆ど残っていない食べかすを地面に放り投げてから私の方に振り返った。
その表情は妙に笑顔が張り付けられていて不気味だった。壊れたオモチャみたいな印象を何となく受けるくらいには生気も無い。
それなのに笑顔で語りかけて来るんだから不気味で気持ち悪いってしか言いようがないわよ。
「ちょうど良かった。少しばかり試させてくれよ」
「試す? 4本尾くらいなら、私は瞬殺出来るけど?」
「4本尾? くくくっあははははははははははっ!! 4本尾? 僕が? 君の目は節穴かい?!」
カトルの尾は何度数えても4本尾だ。その程度なら瞬殺は言い過ぎでも、特に問題なく倒すことが出来る。
特にカトルの戦闘スタイルは搦め手を中心としたものだと聞いている。中途半端な火力ならまだしも、私にもなれば半端な搦め手なんかは真正面から燃やし斬れる。
そんなこと、カトルだってわかっているハズだ。だから、私の前には徹底して分身体が現れなかった。
私と対峙すれば、問答無用で焼き尽くされるのを分かっているのはこいつらの親玉であるショルシエなんだから。
その親玉ですら、勝負することを避けて、出来るだけ時間を掛けさせていたって言うのに分身体のカトルが私に対して試す? 頭どうにかしちゃったんじゃないの?
少なくとも冷静というか、まともなようには見えない。
「僕の力にひれ伏せよ!! 魔法少女ぉっ!!」
ドンっと魔力と獣の力が吹き上がる。ビリビリと空気を震わせる。明らかに4本尾のそれじゃない。
5,いや、これは――。
「6本尾……!!」
カトルの背中越しに見える4本の尾が引き裂かれるようにしてその数を増やす。その数は6。
私の知る限り、ショルシエ以外の分身体では最大本数の数だ。その力は当然のように強くなって、よりショルシエに近づいていると言っていい。
ここまで来ると流石の私もそう簡単に倒せる領域じゃなくなってくる。
「ママ……」
「メル、絶対に離れちゃダメよ」
魔力の質も重くて荒々しい。ドラゴンのそれより攻撃的で明確な敵意を持っているそれにメルドラが怯えているけど、頭を撫でててあげて、絶対に離れないように言う。
庇って戦っている余裕は流石に無くなりそうな相手ね。
「僕の新たな名はアルツ!! 6本尾のアルツだああぁっぁぁぁっ!!」
高笑いをしながら魔力をまき散らすカトル改め、アルツを前に私はSlot Absorberを構えた。




