無限界牢
しっかり休息して、メルドラの体力もある程度回復したところで私達はゆっくりと前に進みながら空間の繋ぎ目を探していた。
目をつむって集中するメルドラの様子を気にしながら、私達も邪魔をしないように極力喋らないようにする。
あとは余計なことをされないように周囲への警戒だ。
私達が脱出への糸口をつかんだことを察知されていたら妨害するのは当たり前。何らかの妨害手段を講じて来る可能性はある。もしここでメルドラを狙われて、怪我をするようなことがあったら私達はいよいよまともな脱出手段を失う。
空間のはざまに飲み込まれる覚悟で、この歪曲された空間を無理矢理元の形に戻すくらいしか出来なくなる。
そうならないためにここはじっくり、確実に、ね。
「!! この辺!!」
「来たか!!」
そうしているうちにとうとう空間の境目に到達したらしい。感知している分身体からの『獣の力』の距離が急激に変化した位置、そこが空間を歪曲して無理矢理繋げている地点。
ここから、更に細かい調整をする。
「この辺?」
「もうちょっと」
「この辺?」
「ちょっと行き過ぎかも!!」
リオの背中に乗っていたメルドラを抱えて、より細かく、正確に空間の繋ぎ目を探していく。メルドラの感覚的には左右どちらからも『獣の力』を感じる場所、になるのかしらね。
一方の方向からしか音を出していないのに、両耳から同じ音量が聞こえてくることはよっぽど特殊な環境じゃないと無いハズ。
その空間の繋ぎ目の真上に来れば、そのあり得ない状況になるだろうという仮説ね。
実際、メルドラはその感覚で場所を探っているみたいで、少しずつ位置をずらしていく私にもうちょっと、もうちょっとと細かく移動をするように言ってくれた。
「ここ!!」
そして、ついにその正確な境目を見つけた。私の手から飛び降りたメルドラが廊下を少しだけ行ったり来たりして、感覚を確かめると尻尾で○を作ってアピールをするメルドラを撫で回して褒めてあげると嬉しそうにニコニコしている。
「目印OK。全力でやっちゃって!!」
氷の目印を作って、狙いを確実にしてくれたグレースアにもお礼を言って、私とフェイツェイが少し距離を取って構える。メルドラはグレースアに預けた。危ないからね。
ここから空間をぶった切るのだ。それ相応の火力は必要。ありがたいことに火力だけなら十分すぎるくらいに足りている。
【【Slot Absorber!!】】
2人揃ってSlot Absorberを起動。『鷹』と『獅子竜王』のメモリーを挿して強化変身。
「「『『魔法具解放』』ッ!!」」
「『翠嵐・颶風ノ拵』!!」
「『炎王剣 イクスキャリバー』!!」
更には『魔法具解放』をして火力を上げる。個人が持つ威力で考えればこの辺りで打ち止め。ここから先は人間じゃ無理な領域。
私達はそれぞれそこに至っている訳だけど、今はそれを見せる時じゃない。元々無理矢理魔力で繋いでいる以上は脆い。
これだけの火力が二つ揃えば、十分でしょ。
「『『固有魔法』』!!」」
「頭を落とせ。『翡翠・椿-覆輪紅唐子-』」
「『星を斬る剣』!!」
花弁を模した緑色の幾つもの斬撃と巨大な炎の剣が氷の目印に一斉に着弾する。
その瞬間、弾けるように足元が揺らいだ感触と浮遊感が襲い掛かって来る。平衡感覚が無い。どちらが上かさっぱりわからない。
でも落ちる、と感覚で理解した瞬間に腰回りにひんやりとした感触がしたと思ったらそのままおもいっきり床に叩きつけられた。
「いっ?!」
「あ、ごめん!!」
受け身も取れずに床に叩きつけられた私達を見て、綺麗に着地したグレースアが両手を合わせて謝っている。
受け身を取れなかったことなんて久々だから驚いた。半竜とは言え、受け身を取れないと普通に痛いモノは痛いのよね。
「引っ張り上げるのは出来たけどそこまでだったや」
「大丈夫。むしろありがとう」
「上下感覚が無くなった時は普通にヤバいと思ったな」
それな。飛行能力を持っているからこそ、平衡感覚は超重要な私達にとってそれを奪われるとどうすればいいのかって選択肢が消えるのよね。
引っ張り上げてくれたグレースアには感謝しないと。




