無限界牢
「でもアズールの調子が戻ったみたいで良かったよ。ずっと苦しそうだったからさ」
「まぁな。ここだけの話、番長からはそろそろ引退させるかって話も出てたんだ。あのままじゃメンタルが潰れてた」
もそもそと携帯食料をと水を交互に口にしながらグレースアとフェイツェイがそう溢す。
フェイツェイが『原始回帰』という新しい力を使ってまで止めたアズールはここ数年、ずっと上手くいっていなかった。
端から見ていても見ていられなかった。精神的に無理をしているのは私から見てもよく分かったし、どう声をかけようにも妹分の私から心配の声をかけてもそれとなく躱されるし、強く言えば喧嘩になるのは確実。
そうなると割と大マジな大喧嘩になって怪我する可能性だってあった。それを考えると強くは言えない。
番長が仕事をそれとなく減らして、休息の時間を作ったり、健康診断の名目でカウンセリング受けさせたり、色々してたみたいなんだけど、全部いっていなかったのよね。
「そこまで話が進んでたのね」
「正直に言えば、妖精界に行かせるかどうかすらギリギリだったんだ。番長は行かせられないという判断だったが、私が押し通した」
「なんで?」
「……潰すには惜しいだろ。最前線に連れて行けば単細胞なアイツのことだ。悩みなんて消し飛ばすだろうと思ったんだ」
そう言うフェイツェイに私とグレースアがにまにまと笑って見せると本人は嫌そうな顔をしてからそっぽを向いてしまった。
普段から口喧嘩の多い2人だけど、なんだかんだお互い気にかけてるのよね。良きライバルって言うか、お互いリスペクトはしてるって言うか。
弱みとか可愛げのあるところを他人に見せたがらない2人だから、こういう一面が見られるのは珍しい。
「フェイツェイお姉ちゃん、お顔まっかっか」
「言われてるわよ」
「うるさい。仲間を心配くらいするだろ」
不器用ねぇ。心配してるならしてるって言えば良いのに。ま、そういうところが似てるから出来る配慮っていうのもあるし、やっぱいい関係っていうか、良きライバルってヤツよね。
自分で言うのもなんだけど、私と真白みたいな関係よね。端から見てると、私達もこんな感じなのかしら?
「ルビーとアリウムはもっと分かりやすいね。色んなところで親友でライバルって雰囲気バリバリだもん」
「お前らはプライベートでもニュースに取り上げられてたしな。よく知らない奴から見ても唯一無二に見えるんだろうさ」
あー、そんなこともあったわね。アメリカでファッションショーに出演した後に帰国して、真白と遊んだ時に記者に撮られた写真がニュースになったやつ。
新進気鋭のスーパーモデルは諸星家のご令嬢と友人関係~、みたいな見出しだったわね。スキャンダル的なのじゃなくて、有名人のプライベートに密着!! 的なヤツで、内容も取材して来た記者も随分と礼儀正しい人だったのを覚えている。
「なんかちょっと燃えたヤツね」
「アレ意味不明だったね」
「ようは僻みだろ。時代の最先端を行くモデルが世界を牽引する諸星家の令嬢と友人ってのは見方を変えれば天に二物も三物も与えているように見えるだろうからな」
はー、そんなことやってる暇あるなら自分磨きしなさいよって。与えられたモノを磨かずに、磨いてる人の脚を引っ張ろうなんてカスのやることでしかないんだから。
才能だの、境遇だの、環境だの、人によって人それぞれだけど、努力しない奴が輝くことは無い。諦めたのなら、黙って現状維持に努めるのが筋なのであって、他人の脚を引っ張って良い理由にはならないわ。
まぁ、あんまりこういうこと言うとまた炎上するんでしょうけど。でも、こういう考え方でいないと腐るだけよ。
自分のことは自分の手でしか変えられないんだから。
「がうがう(御託垂れるのは良いけど、動かんで良いのか?)」
完全にリラックスして、雑談にのめり込む私達に暇そうにしているリオが小さく文句を言っていた。
まぁ急かさないでよ。メルドラを休憩させるのが目的なんだから。




