無限界牢
あとはその繋ぎ目を見つけるだけ、なのだけど当然これだって難しい。
探知の方法を持っているのはまだまだ子供のメルドラっていうのがね。
どうしたって集中力にムラが出ちゃうし、長続きしない。語彙も少ないから言いたい事を正しく伝えきることも難しい。
空間の繋ぎ目を正確に測るにメルドラしか探知できないって言うのは難しいのよ。そして、その探知を使って繋ぎ目を探る方法って言うのも地味だしね。
「術者であろう分身体の『獣の力』を感じ取って、その距離で繋ぎ目を測る。確実だが、地味な方法だな」
フェイツェイが地味な方法と評価したそれが、空間の繋ぎ目を探る唯一の方法だと思う。
これだけ大規模な魔法だ、これを発動維持しているショルシエの分身体もその場から動くことは難しいハズ。それだけ、空間の歪曲というのは無茶苦茶で現実的に運用するのに向いていない技術ってわけ。
ほっといても維持出来るわけでもなく、発動そのものも難しくて、その維持のためには膨大な魔力が必須。挙句の果てには術者は維持のために集中しなきゃいけないからその場から動けなくなる。
実用するにはデメリットが大き過ぎる。普通ならこんなの実際に戦いで運用しようとすら思わないような技術よね。
これをやるなら代替案を探った方が10倍はマシ、って真白と紫は言うと思うし、あの2人なら代替案も用意出来るでしょ。
その動けない術者、『獣の力』を発するショルシエの分身体を感知して、その距離を測ることで私達は繋ぎ目を探っているわけ。
繋ぎ目を通り越したときにはその距離が極端に変化するはずだからね。空間の端と端を繋げているから、その端を超えた時に突然感知する距離や向きが変わるから、それを感知しようってこと。
地味よねぇ。ゆっくり進まないといけないし、メルドラの探知頼み。子供のメルドラにとって、ずっと探知をし続けるのは体力的にも精神力的にもどうしたって難しい。
「メルちゃん大丈夫?」
「んー、ちょっと疲れて来ちゃった……」
「少し休憩しましょ。時間は無いけど、時間を掛けなきゃどうしようもないわ」
「だな」
グレースアがメルドラの様子を伺うと、少し疲れてしまった様子。多分、本人が思っている以上に疲労しているハズだ。
子供は大人の期待に応えようとする時、想像以上の集中力を発揮することもある。ただし、それは一過性。
やっぱり長時間もたせるのは難しいし、負担も大きい。運動会の帰りに爆睡しちゃう小学生みたいなものね。
「食うか? あんまり美味いもんじゃないが」
「食べる!!」
差し出されて携帯食料に手ごとかぶりつく勢いのメルドラを抑えながら、フェイツェイが差しだしてくれた携帯食料を受け取る。
それを開けると飛びついて来ようとするメルドラに待てをして少し落ち着かせてから食べさせた。
むしゃむしゃと食べる姿に全員が少し張り詰めた空気と肩の力を緩めて、自分達も携帯食料と水を口にする。
ぼそぼそとした口当たりで絶対に水が欲しくなるようなものだけど、案外味は悪くないのよね。栄養素はともかく、カロリーは聞かない方が良いわよ。一般の人からしたら卒倒モノのカロリー量だから。
魔法少女はカロリーを魔力に変換してるって研究結果があるみたいで、この携帯食料もその研究結果を反映した物。
そりゃもう、物凄いカロリーの塊だ。私達ですら、普段から常食は厳禁とされているくらいにはね。
「外、どうなってると思う?」
「かなり苛烈な戦いになっているのは間違いないだろう。私達を閉じ込めている間に出来るだけ勝負を有利に進める魂胆なハズだ」
外の様子はどうなっているか、という話題にフェイツェイは無難に答えたわ。ま、共通認識ね。特に攻撃力のある組を狙ったのは間違いなし。
私達がショルシエ本体に対して驚異的な火力を保有している証拠にもなるわけだけど、時間稼ぎをされているのはあまり良いことじゃないわよね。
「そんな簡単に私達以外の魔法少女が負けるとは思わないけどね。皆、隠し玉用意してるでしょ?」
「手の内を見せ過ぎないようにはしてたしね。私だけ最初からフルスロットルだったけど、フェイツェイ達もバレるなんてね」
「私がアズールを止めるのに『原始回帰』を使ったからな。アレの情報が出回ったんだろう」
悪手だったな、と舌打ちをするフェイツェイだけど、実際必要なことだったと思う。魔法少女相手に戦うなら、どうしたって圧倒しないと長期戦にもつれ込む。
あっちはこっちを殺すつもりなのに、こっちは傷付けるのも難しいって中での長期戦は物凄く厳しい戦い。だから短期で決着させる。そのためには戦闘能力で圧倒するしかないんだから。




