無限界牢

「成程。段々カラクリが分かって来た」

「かなり強引な手段だけど、実現出来たら見破るのは相当難しいわね」

無限に廊下が続く空間に閉じ込められた私とフェイツェイ、グレースア。そして私の使い魔のリオと子供ドラゴンのメルドラはようやく、この空間の突破方法に目途が付いて来たところだった。

「しかし不思議だよね。私達じゃてんで分からない気配がメルドラちゃんにはわかるなんてさ」

メルドラはどうやら『獣の力』をだいぶピンポイントに探知しているみたいで、その精度は最も『獣の力』に敏感であろう妖精の王族である真白達と同格かそれ以上の可能性すらある感じすらあるわね。

真白達は『獣の力』というよりは『獣の王』という存在やその魔力に敏感って感じだしね。

「んー？」

「本人は自分のしていることを分かってなさそうだがな。ルビー、メルドラのこの能力はドラゴン由来の能力なのか？」

「それだったら私が気付いているわよ」

そしてこの能力はドラゴン由来の能力では無い。それなら私だって気が付いているもの。

まぁ、純粋なファンタジー存在である妖精界のドラゴンと、トカゲが魔力を得て急速に進化した人間界のドラゴンじゃ色々違う可能性はあるけど、私の体感では人間界のドラゴンと妖精界のドラゴンに生物的に大きな差は無いと思う。

専門外だから正確さには欠けるけど、少なくともスペック差はそこまで無いわね。人間界でも妖精界でもドラゴンは最強の生き物であることに疑いの余地は無いわ。

「幻術とかそういう類じゃないってわかったのは大きいね」

「あぁ、幻術だった場合は本当に私達じゃ対処し切れなかっただろうからな」

「空間を捻じ曲げるなんて、強引なことするわよねぇ」

とにかく、メルドラの感知能力のおかげで1つ確実に分かったことがあって。それはこの無限に続く廊下が幻術などの魔法を用いたモノじゃないってことだ。

幻術はその名の通り幻を見せる魔法のこと。ようは脳を騙す魔法だ。高度な魔法を操る種族であればあるほど、高度に発達した脳の機能に判断能力が依存しているから幻術にかかった時の効果が高いらしいんだけど、その辺はアメティアの方が詳しいわね。

魔女の名の通り、あらゆる魔法を使うアメティアは幻術もお手の物。本人曰く、最も前準備が必要な魔法体系の1つらしいから、使い勝手は物凄く悪いっても言ってた記憶があるわね。

その幻術系を用いて、私達を捕えていた場合。私達は本当に抜け出す術が無い可能性があった。

何せ、ここにいるのは揃いも揃って魔力と身体的なフィジカルで押し切るパワータイプの魔法少女ばかり。

相手の戦略も技術も防御もそれを上回る圧倒的な火力でぶっ壊してしまえばなんの問題も無いでしょ？っていう脳筋揃い。

そんなのが幻術なんていう如何にも頭の良い奴が使う魔法に囚われたら逃げる術があるわけが無い。

自慢の魔法で幻術ごと吹き飛ばせば良いじゃないかって思うだろうけど、そんな都合の良い話も無くて、幻術系は殆どの場合、脳を完璧に騙すために身体的な感覚を遮断する。

簡単に言えば、昏睡状態にさせて夢を見させるわけ。夢の中で魔法を使ったって、現実では寝てるんだから抜け出せるわけが無いわ。

だから幻術だった場合、私達に抜け出すための手段を無い頭を絞って捻り出す必要があった。

でもそうじゃなかった。と、なれば脱出方法は途端にシンプルになるわよね。

「空間を魔力で歪めて繋げているなら、その無理矢理繋いだ繋ぎ目は弱い」

「あとはその繋ぎ目の場所だ。出来るだけクリティカルにヒットさせなければならん。空間を歪めるなんて無茶苦茶やってる魔法が壊れた時の反動なんて予想もつかんからな」

「イメージとしては指定した空間を平面として捉えて、それを無理矢理球状にして連続させてる、って感じかな？」

空間系の魔法は管理が異常に難しいことで知られてるわ。今のところ、出来ることと言えば、箱状に閉じ込めた空間の中をほんの少し広げるくらい。

それを長時間維持した上で歪めて本来連続していない場所同士を繋げるなんて相当な無茶苦茶。

大量の魔力で無理矢理やっていることは確実。そんな魔法が中途半端に弾けたら、私達もどうなるかわからない。

だから、繋ぎ目を正確に把握した上でそれを破壊する。そうすれば、歪んだ空間が正しい形で正しい場所に戻るだけだから、比較的安全なハズ。

「何も考えずにぶっ放してたらヤバかったね」

「考えたくも無いな。下手するとこの次元から消えることになるんじゃないか？」

空間、つまり3次元の外に行ってしまうと言うのはそういうこと。具体的なイメージはサッパリできないし、私達はかいつまんだ情報で適当なこと言ってるだけだから、実際はどうなるのかは知らない。

とにかく、感覚的にわかっていることは下手なことするとどうにもならなくなる可能性だってあるってこと。

幻術もそうだけど、この手段も私達みたいな脳筋を閉じ込めておくには物凄く都合の良いやり方でガチガチに対策されているのがよく分かるわね。