3尾の獣
『獣の力』がウチの『固有魔法』を同質なら、下手に抗うのはNG。逆らうんじゃなくて、流れに乗ってその行き先をコントロールするのが正解だ。
生身で川の流れに逆らうより、流れに乗った方が向こう岸に渡れる確率が高いのと似たようなもんだ。
嫌っているモノ、恐ろしいと思っているモノに逆らおうとするのは反射的な防衛行動だからこそ、どうしたって逆らっちまう。だから難しいんだ。
「弱い味方を持っていると大変だなぁ、アズール」
「テメェ……、よっぽどウチを怒らせたいらしいな」
ピキピキと額に青筋が浮かんで行くのが分かる。湧き上がって来る怒りと魔力がウチとショルシエ、そしてショルシエが砕いたビーストメモリーから生まれた獣達を取り囲むように渦巻いて行く。
コピー野郎なのは重々承知だが、絶対に逃がさねぇぞクソ野郎。叩きのめしてやる。
「うううううっ……!!」
「そぉら、あっという間に獣に逆戻りだ。どちらが飼い主か、思い出させて――」
「うる、さいっ!!」
唸り声を上げていたサフィーを見て、面白そうに高笑いをするショルシエだったが、サフィーがとった行動はウチとショルシエのそれとは違うモノ。
「うるさい、んですよ!! 人のことを好き勝手に獣呼ばわりしないでください。不愉快です!!」
サフィーは魔法で獣の一体を消し飛ばしたのだ。少々荒っぽい魔法だったが、確実に倒す意思を持って、ショルシエと獣達向けて放ったモノだ。
それはつまり、ショルシエへの敵対と自分の意識を持っている証拠。獣に堕ちてたまるかと言う根性の現れだった。
「貴様ぁ……。王たる私に向かって牙を向けるとは良い度胸だ」
「貴女なんて王じゃありません。猿山の上でボスを気取ってるだけのマヌケの間違いじゃないですか?」
瞬間、放たれた魔力をぶった切って、サフィーに届かないようにする。割れた魔力が帝国王城を吹き飛ばして、音を立てて崩れていくのが聞こえて来た。
視線の先には明らかにブチギレているのが見える。いい気味だ。思い通りにいかないのが一番面白くないタイプのヤツに対して一番効く最高の意趣返しだぜ、サフィー。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます。今の私には、このくらいが精一杯で……」
「上々だろ。流石はウチの妹だ」
虚勢なのは分かってる。それでも虚勢すら張るのが難しい相手に虚勢を張って見せたってのだけで十分だ。少なくともウチよりは早くコントロール出来るようになるだろ。
「王に逆らったのだ。魂の一片も残さずに喰らって我が血肉となってから今一度獣として使役してやる」
「誰がなってやるもんですか!!」
よろよろと立ち上がったサフィーがウチの後ろにまで近づいて来ると、背中に圧し掛かって来た。
『獣の力』に抗いながら、ここまで出来るなら本当に上々だなと思っているとその手にはメモリーが、恐らくは『人魚』のビーストメモリーと思われるものが握られていた。
「お前にくれてやるくらいなら、お姉さまに魂も何もかも捧げるわ。私の力も魂の一欠けらもお前なんかにくれてやるものか!!」
脂汗をかきながら、必死になってサフィーはそう叫ぶ。それは偽りのない本心ってやつだろう。
ショルシエに取り込まれるくらいなら、ウチに食われた方が良い。そんな破滅願望的にも聞こえる発言だが、それがサフィーの覚悟ってヤツなんだろうよ。
「ごめんなさいお姉さま。私のこんな汚れた力でも、お姉さまのお役に立てるでしょうか?」
「バーカ。何処が汚れてんだよ。何も汚れちゃいねぇよ。どんな力も使い方で良いも悪いも変わる。何かを守りたいって、助けたいって思う力の何処が汚れてんだ」
「……ありがとう、ございます」
背中にもたれかかるサフィーから垂れて来た水滴が握っていた『人魚』のビーストメモリーに触れた時、薄汚れたメモリーが端から汚れが落ちて行くように綺麗なエメラルドブルーに変わっていく。
「お姉さまに、私の全てを預けます」
「任せろ。全部背負ってやるよ。一緒にやろうぜ、サフィー!!」
「ハイっ!!」
サフィーの姿が薄くなって、『人魚』のビーストメモリーに吸い込まれて行く。この現象は見たことあるぜ。
グレースアが『凍結』のメモリーの中に消えていくのと似たような感じだ。
【Slot Absorber!!】
サフィーが吸い込まれて行ったエメラルドブルーに変化した『人魚』のビーストメモリーを掴んで、Slot Absorberを起動する。
やろうぜウチらで。1人でダメなら2人で。2人でダメなら、3人で!! ウチらがいつだってそうやって来たやり方で!!
【『優しさ』!! Beast memory!! 『人魚』!! Double Slot!!】
「「「『同調』!!」」」
紺碧と青と瑠璃色が混ざり混ざって渦を成す。深い深い紺碧の海も、広く全てを受け入れる優しい青も、浅く穏やかな美しい瑠璃色も全部全部、同じ海だ。
「『超進化』」




