3尾の獣
二振りある『五百重波の海斧』の片方をぶん投げて叩き付ける。勿論、水流のオマケ付きだ。
「『魔法具解放』とやらがどれほどのモノか、見てやろう!!」
「もうルビーので見てるんじゃねぇのか!!」
掴まんで止められたが、それを軸に水流に乗って高速で背後に迫る。鎖を引き、斧を引き寄せて手元に戻すと回転するように二連撃を叩き込む。
当たっていない感触を確認する間も無しに尾鰭をフルスイングして顔面を狙う。
「アレは少々例外が過ぎるだろう。まさか生身の人間如きから私に肉薄する存在が現れるとはな」
腕で受けられてその場で力比べが始まる。この尾鰭、端から見たら不便そうに見えるがこれが案外悪くない。
空中を漂える以上、足場に依存しなくて良い。水流に乗れば、足よりよっぽど高機動に動ける。何より、見た目以上にパワフルだ。
実際、腕一本とは言えショルシエと力比べが出来るくらいのパワーがある。いくらショルシエが魔法主体で戦うタイプとは言え、このレベルの相手になって来ると並みのパワーファイターより上のパワーを持ってるなんてザラだ。
「随分と評価してるじゃねぇか。そんな天敵みてえなのがもう近くまで来てるぜ?」
「それについては対策済み、だっ!!」
拮抗していたのを無理矢理弾き飛ばされて、距離を強制的に取らされる。すぐに水流を作って飛び込んで移動をすれば、さっきまでいたところは魔力の塊をぶつけられているところだ。
3年前から変わらない、芸の無い魔法とも言えないようなレベルのモンだ。属性もないただの魔力の塊をぶつけるだけの攻撃。
アリウムの障壁魔法をぶつけるよりも更にシンプルな、人間の武装や攻撃で例えるなら石ころを投げるレベルの攻撃なわけだがショルシエともなれば、石ころどころじゃない。
岩盤ごと吹っ飛んで来るみたいなもんだ。まともに受けたらそれだけで終わりだ。
「適当な時間稼ぎだったら意味無いぜ。ぶっ壊した方が早いとか言い出すからな」
「蛮族どもめ。貴様たちの方がよっぽど獣じゃないか」
「はははっ、ちげぇねえ!!」
ルビーにはなんかやったらしいが、アイツもそうだし一緒にいるフェイツェイとグレースアも大概脳筋のそれだ。
閉じ込めるなり拘束するなり何らかの時間稼ぎをしているらしいが、半端なのは通用しない。
大体は力づくでこじ開けて来るだろうアイツらのことを獣と言われたらその通りだよ。その辺の犬猫のほうが頭つかうんじゃねぇかな。
次から次へと『五百重波の海斧』を水流と共にぶつけて行くが、ショルシエに有効打は入らない。
同じく、ショルシエの攻撃がこっちに当たっていることもない。
まだまだ序の口ではあるが、こりゃ長くなりそうだ。そして、長くなればなるほど不利になるのはウチらだ。
「全く、貴様ら魔法少女というのは一々想定を超えて来る。全く、厄介で堪らん」
「そりゃお褒めに預かり光栄、だな」
「ふんっ。おかげで分身体どもはどいつもこいつも役立たずの愚図ばかり。ちっとも役に立たん上に貴様らに有利を取られる始末。仕方なく、私自身が出て来ているが、このままでは押し切られてしまいそうだ」
やっぱ何かを企んでるな? わざわざ出てきたのも、シャロシーユが妙に弱い分身体なのも、何か意図があってやってることだ。
つまるところ、ウチらに対してぶつける何かがあるってことだ。大体、そういうのはロクでもない。
「『獣の力』というものを改めて考えてみてな。こういうことも出来るというのは中々面白いな」
手に持っているのはメモリー。恐らく、ビーストメモリーか。それを砕いて、漏れ出た魔力と『獣の力』がどろどろと漏れ出ると動物の形へと変わっていく。
ちっ、こういうのばっかだよホント。数で戦うのは獣の基本戦術ってか? しかもその一体一体がつええんだから厄介だ。
「あまり時間をかけない方が良いぞ? 可愛い妹分はまだまだ『獣の力』の扱いに慣れていないようだからな」
「……っ、サフィー!!」
しかもそいつらが放つ『獣の力』に当てられたサフィーがうずくまっているのを見て、時間をかけていられないのも悟る。
クソ、ホントこういう選択肢を狭めて来るやり方だけは本当に得意だなコイツ。




