3尾の獣
「なんて惨い……」
「酷い言いザマじゃないかサフィーリア。私達は仲間じゃないか」
「誰が!! 無理矢理ビーストメモリーを使われたことは忘れてませんよ……!!」
サフィーはその様子に思わず口から盛れるが、ショルシエに茶化されて声を荒げる。
その内容に正直ホッとした。サフィーは望んでショルシエ側に行ったわけじゃないってことが分かったからな。
大方、人目の付かない所に誘い出されて捕まったってところか。
……怖かったろうに、気が付けなかったのが本当に情けない話だ。
「中々刺激的な日々だっただろう? 本来、妖精とはあぁいう生き物なんだ」
「ふざけないでください!! 欲望に身を任せた生活なんて御免です。貴方達、獣と一緒にしないでください」
「落ち着けサフィー。気持ちを高ぶらせたらアイツの思うつぼだぜ」
「……すみません」
がるがると唸り声を上げそうな勢いのサフィーを制して、気持ちを落ち着かせる。煽られたってのもあるが、やっぱ『獣の力』の影響を受けてるな。
前より喧嘩っ早くなってる。もうちょっと大人しい性格だったからな。
ショルシエは相変わらずってとこか。こっちの神経を逆撫でするのだけは一流だな。
「おおかた、お前も本体じゃねぇんだろ?」
「流石に手の内はバレているか」
「分身体だのなんだの、いくつも使ってりゃあな。それに、お前がわざわざリスクを侵すとは思わねぇよ。根っからのビビりだからな」
ショルシエはショルシエだろうが、どうせコイツは本体じゃないってのは当たりらしい。
わざわざ敵の前に姿を現す必要なんて無いしな。コイツは今の今まで一貫して自分の本体をウチらの前に出した事は無いんだろうよ。
今まで目にして来たのは良く似た分身か、本体のコピー。
生粋のビビり。慎重に慎重を重ねるとかそういうレベルじゃなく、絶対にリスクを侵さないという弱気な姿勢が見て取れるぜ。
「そんな弱気でウチらに勝てるとでも?」
「弱気? 冗談はよせ。月に吠えたところで届かんのは自明の理だろう?」
一歩も譲らず、話は平行線。これもいつも通りの予定通り。
分かってたことだが、話になるわきゃねぇな。そもそもに根本的な物の見方ってのが違うんだからよ。
だから、戦ってどっちの筋を通すかを決めるしかねぇ訳だ。
「サフィー、下がってろ」
「お姉様……」
「安心しとけ、スランプは抜けてんだ。今のウチは、つえーぞ」
本体のコピーとは言え、ショルシエはショルシエ。戦うとなりゃ、死ぬ覚悟が必要だ。
『ヴォルティチェ』を構えるウチを不安そうに見つめるサフィーに笑いかけてから、魔力を一気に吹き上げる。
「本気で行くぜ、『獣の王』。てめぇの獣性とウチの獣性、どっちが上が比べようぜ」
性質がほぼ同じ『獣の力』とウチの『固有魔法』。当然、有利は魔力の多いショルシエだが、戦いはそれだけじゃ決まらねぇ。
さぁ、戦ろうぜ。
「『魔法具解放』ォッ!!」
咆哮と共に弾けた『ヴォルティチェ』が魔力の濁流になって身体に纏わりつく。
瞬きの間に現れた2本の柄を振り上げ、海を割るようにして現れたウチの姿にショルシエは少しは驚いてる様子。
「『五百重波の海斧』!!」
人魚みたいな尾鰭を閃かせながら、身の丈程の二振りの巨斧を構えてる様子は中々にトンチンカンな見た目な気がするぜ。
だが、これでショルシエを少しでも驚かせられたのなら、本気の出しがいがあるってもんだ。
「……『魔法具解放』は3人しか確認されてないと聞いていたが、この土壇場で習得して来たか。だが、そんな付け焼き刃でこの私と張り合う気か?」
「勘違いすんな」
『絶炎の魔法少女 シャイニールビー』
『極彩色の魔法少女 アメティア』
『翠剣の魔法少女 フェイツェイ』
この3人が『魔法具解放』が出来ると公表されてるだけだ。
要は周囲に出来ると伝えている魔法少女。最強の一角の証みたいなもん。
「ウチが、1人目だ!!」
ウチみたいな捻くれ者もいるってのは知っておいた方がいいぜ。『獣の王』!!




