3尾の獣
「……お姉さま」
「細かい話は後だ。もうひと勝負、ありそうだぜ」
サフィーから言いたい事は山ほどあるだろうよ。ウチだって言いたい事は山ほどある。他の皆もな。
だが、それは今することじゃねぇ。まだ戦いは終わってねぇからだ。そこは全部終わってからで良い。
今は、目の前の敵をどうやって倒すかを考えてた方が良いだろうよ。
「うぎぎぎ……。許さん、許さないぞ魔法少女……!!」
視線を向けた先には一つ目の怪魚、あるいは両生類の幼生か? そんなのに似た、少し身体の表面がぬめぬめしているタイプの生き物の姿をしたヤツがウチらに呪詛を吐いていた。
あれが、どうやらシャロシーユの本体らしいな。サイズ感で言えば、寄生する都合もあってかだいぶ小さい。
人の頭くらいのサイズか? まぁ、寄生生物としてはデカいが、ショルシエの分身体としては間違いなく最小だろうよ。
そんなヤツが自ら食って、そして吐き出した瓦礫の上をペタペタと這いずりながら声を上げている様子はまあまあなホラーというかグロテスクだな。
「支配権の勝負に負けたら体外に排出されるたぁ、こっちにとっては好都合だな」
「はい。でも、やっぱり『獣の力』に汚染された影響は強く感じています」
「その辺も教えてやるから安心しろ。『獣の力』は別に制御不能なわけじゃない。心を強く持てば、『獣の力』には負けない。むしろ活用出来るまであるぜ」
闘争本能を過剰に刺激して知性や理性を押し退ける『獣の力』を上手く使えば、闘争本能を限界まで引き上げながら戦略的な戦いをすることが出来る。
同じような力を使っているウチが保証する。『獣の力』は心が強ければ大丈夫だ。
サフィーの『獣の力』は相当に強いだろう。何せショルシエに直接注ぎ込まれたと言ってもいい。
並みの妖精達では太刀打ちが出来ない可能性だってあるが、それでも制御できない道理はない。原理が同じなら、あとはシビアさの話だ。サフィーにはその分野での才能がある。
影響の強さは見た目にも反映されちまってて、前までの少し青みがかった肌はすっかり濃い茶色になっちまった。髪も彩度の高い綺麗な青だったんだけど、今は濃紺ってところか。
全体的に暗い印象にはなっちまったが、これはこれでアリだと思うぜ。なんて言うか、エキゾチックな雰囲気がサフィーに良く似合っている。ウチも色黒だしな。
「トドメ刺すぞ。覚悟は出来てるか?」
「ハイ。任せてください」
シャロシーユをここで逃がすと厄介だ。確実にここで仕留める。逃げ場は無いぜ。サフィーが魔法を、ウチが『ヴォルティチェ』を構えトドメを刺そうと力を込めた。
「まさか完全復活されるとはな。不調さを憂いていた魔法少女とは思えんな」
その時にウチらに向けられた魔力の塊と声。素早く対応したウチとサフィーになんらダメージは無いが、現れた存在には顔を顰めるしかねぇよな。
「親玉直々とはな。暇なのか?」
「暇では無いさ。だが、貴重な力をここで失うのは流石の私も惜しくてな」
「お前に力なんて有り余ってるだろ」
「そうも言ってられん。貴様ら魔法少女ども進化には手を焼いているというのが本音だ。貴様も含めてな、『激流の魔法少女 アズール』」
当然のように現れたショルシエ。予想してなかったわけじゃねぇけど、出て来られて迷惑なのは変わらないぜ。
文字通りの第二ラウンドの始まりってわけだからな。
「ショルシエ!! 助けてくれるのか!!」
「ん? あぁ、回収しに来てやったぞ」
「なら私を早く安全な――」
対してショルシエの登場で自分の身の安全を確信したシャロシーユは大喜びで近づいていったが、その結末はこっちが目をそむけたくなるようなものだった。
「お役目ご苦労。シャロシーユ。おかげで良いデータを集められたよ」
「あ、ぎっ……?!」
ヒョイとシャロシーユを摘まんだショルシエはおもむろにそれを口に含むと、生きたままシャロシーユをその牙と顎でシャロシーユをそのまま食らったんだからな。
生きたまま生き物が食われるサマってのは流石にグロいってものすら超えて来てるって感じる。
やっぱコイツに味方って概念はねぇんだろうな。自分の分身体なんだから、その処分も活用も自分次第ってことなんだろうよ。




