3尾の獣
ただ、おかげで攻撃はしやすくなった。瓦礫と自分の魔法を喰って巨大化しているが、身体が膨れ上がってるのは見た目だけで、実際はさらに分厚い魔力層と瓦礫の塊を纏っている。
今の状態でもある程度容赦なく攻撃できるってのはだいぶ気が楽だぜ。シャロシーユをこっちで削ればサフィーにも有利に働くハズだからな。
「潰れろォッ!!」
「そんなもんでどうにかなるかよ!!」
見た目重量は数百キロくらいに見えるが、実際は数トン単位だろうな。それで押しつぶされたらいくら『BEAST OUT』を使ってるからと言って、無傷では済まない。
むしろまともに喰らったら普通に潰される。パワーで勝負するのは不利だな。手数で勝負するか。
図体がデカくなったからシャロシーユの動きは鈍重だしな。
『ヴォルティチェ』の柄を握りしめて、片手で振り回して軽く水流を作る。大した規模じゃなくて良い。目的は削りだ。
「頼むぞ、サフィー」
あとはサフィーを信じるしかない。それが出来なかったら、は最悪のパターンだ。今考えることじゃねぇ。今のウチの仕事は信じることだ。
小さくその場でジャンプをしてタイミングを測って、圧し掛かって来るシャロシーユを避けたら回転しながらその表面を駆け上って行く。
「三枚おろしにしてやろうか?」
「このぉ!!」
表面を削っただけだが手ごたえはバッチリある。本気でやれればかなり良い感じに通る攻撃だな。
三枚おろしには出来るだろうな。特に問題ねぇ。
挑発に乗ったシャロシーユが両手の平を拍手するみてぇにして潰そうとして来るが、動きが遅いせいですぐ避けられる。それどころか隙だらけだ。
「あぎゃああぁっ?!」
両腕を斬り落とす。殆ど瓦礫の部分だが、痛みはあるらしい。もしくは幻肢痛みたいなもんか? 魔力の塊であるシャロシーユにとって、魔法で拡張した肉体はそのままダメージになるっても考えられるが、怯んでくれるならラッキーだ。
ここまで戦ってわかったこともある。3尾のシャロシーユ、だったな。
「お前、弱いな」
痛みで藻掻くシャロシーユのどてっぱらを蹴り飛ばしながら、ウチは率直な感想を口にした。
吹っ飛ばされた巨体で尻もちをついたシャロシーユはそのまま地面に転がるのもだよな。
全体的に弱い。分身体でも尾の数が少ない3尾とは言え、それにしたって弱いって印象だ。魔法のゴリ押しもレパートリーが少ないし、海属性魔法そのものの習熟度も低い。
寄生タイプの分身体だからか? 完全に対象を取り込まないと想定されている能力を引き出せないとかか?
にしたって、このタイミングでそんな実験的なことをショルシエがするのか?
少なくとも、戦力としては随分と期待外れな性能をしているとウチなら感じる。そのレベルで弱い。
サフィーに寄生しているってのを除外すればとっくの昔に勝ってるくらいだ。昴達が戦ってもいい結果になる可能性すらあるぜ。
3尾と言えば、3年前の戦いで相手にした自称ショルシエと同じ尾の本数が同じなんだから、あのくらい賢くて強いんじゃねぇのか?
わっかんねぇな。ウチがあの時より強くなったってだけじゃ説明が付かないぜ。コイツの目的、ってよりはコイツを作ったことで得られるショルシエの得、ってなんだ……?
「この……、余裕ぶりやがって!!」
「実際余裕だからな。お前の弱さには驚いたぜ。お前自身は大して強くないってところか?」
寄生するタイプってのを考えると本人の戦闘能力が弱いのはうなずける。むしろ、寄生先の強さに依存するってところか。
だとするなら、サフィーから次の誰かに寄生して、中からぶち壊すのが目的か?
まぁ可能性としてはあり得るが、んー、しっくり来ねぇな。
「ふざけるな!! お前なんかにこの私が!!」
「お前が負けるのはウチじゃねぇよ。やれ、サフィー。そろそろイケるだろ」
「何を、がぁっ?!」
立ち上がろうとしたシャロシーユの動きが急に止まり、苦しみ始める。ここまで来たらもう十分だろうよ。
「言ったろサフィー。勝てるって」
「はい、ありがとうございます。お姉さま」
内側から身体の支配権を奪い返したサフィーが、崩れた瓦礫の層から姿を現したのを見てウチは一旦肩の荷を降ろした。




