3尾の獣
「身体はウチが抑え込む!! お前は内側からシャロシーユを黙らせろ!!」
身体の主導権はまだシャロシーユの方が強い。目が覚めたシャロシーユがすぐにサフィーの身体を乗っ取っちまうのは仕方ねぇ。シャロシーユが一度身体を乗っ取った以上は優先権的なモノはシャロシーユにあるだろうからな。
だから、シャロシーユをサフィーが負かすしかない。内面的なせめぎ合いでもう一度身体の主導権を取り戻す。
本当は、帝国王弟のスタンが『繋がりの力』と『神器』を奪取してからの方が確実なんだろうけどな。
それを待ってたら日が暮れちまう。何より、サフィーの自信を取り戻すには自分自身の力で今の状況を打破しなきゃダメだ。
弱ったまんま、便利な力に頼ってどうにかしたってまたいつか弱い自分に負ける時が来る。その時は本当の本当に取り返しのつかない何かをしちまうかも知れねぇんだ。
『獣の力』に強く汚染されちまったサフィーは他の妖精達よりその傾向が強いかも知れねぇしな。
ウチと同じように、自分で自分のことをコントロール出来るようにならなきゃダメだ。自分で選んで、自分で実行して、自分の力で結果を出す。
それ以上の自信の付け方は無い。
「ハートで負けんな!! 勝つ以外考えるな!!」
「お喋りの時間は終わりなんだよ!!」
完全に目覚めたシャロシーユはさっきまでいたハズのサフィーをすぐに押し退けて身体の主導権を奪ったみてぇだ。
飛び起きたと思ったら幾つもの渦を生み出してウチ目掛けてぶつけて来た。荒っぽいやり方は変わらねぇ、がさっきより遠慮がねぇ。
余裕をもって倒してやろうって気持ちが無くなったんだろうよ。ようは舐めプを止めたって話だ。
ショルシエを含めた分身体共通の弱点みたいなもんなんだけどな。自分達の優位性を疑わないから最初のうちは絶対に舐めてかかって手加減して来る。
この程度で十分勝てるだろ、ってな。それを逆手にとって最初からこっちが全力で行くのがセオリーってわけだ。そうすりゃ、相手が自分の不利を悟る前に一気にダメージを与えられる。
まぁ、ウチはサフィーを助けるためにその時間を捨てたし、言うほど単純じゃねぇ。特にショルシエ本人は必ず対策を立ててるだろうよ。
自分が本気でやらなくてもよくするための対策をな。
「遊んでやるつもりだったけど止めだ止め!! お前はここで殺してあげる」
「やれるもんならやってみろよ。言っとくが、ウチはまだ本気じゃねぇぞ」
ウチはまだ『魔法具解放』を残してるから、本気の本気じゃないのは本当。まぁ、もうずいぶん本気寄りだけどな。流石に分身体相手に手を抜き過ぎると死ぬ。
だからって本気を出し過ぎるとサフィーの身体に傷を付けちまう。今だって『BEAST OUT』を使ったせいで迂闊に攻撃できねぇ。
おかげで縛りプレイで攻略してるみたいなもんになっちまった。ちょっと調子に乗って使うんじゃなかったって思ってる。
「ほざけよ魔法少女。お前らの本気なんて、たかが知れてるだろうがぁっ!!」
シャロシーユが大口を開けて吠えると、周囲に発生した渦が辺りに転がっている瓦礫を巻き込んでいく。
渦と瓦礫の組み合わせの攻撃はもう散々見た後だ。海属性魔法の基礎中の基礎技をまたやるのかと思ったが、流石に違った。
瓦礫や土砂を巻き込んで、次々とそれを喰らって行く。『権能』だ。確か、シャロシーユが持ってるのは『暴食』だったな。
魔法でもなんでも飲み込んじまう能力でS級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』も持っていた能力だ。
3年前にも見たその能力のいやらしさは嫌でも覚えてるぜ。こっちが撃った渾身の魔法を喰らって、カウンターのブレスはヤバかった。アレが測るのもバカらしい巨体からぶち込まれた時は流石に死ぬと思ったね。
シャロシーユはそのへんの頭がねぇのか、そういうことはして来なかったが……。
「圧し潰してあげる!!!!」
「またデカブツかよ!!」
渦と瓦礫を飲み込み、巨大化したシャロシーユに思わず声が出る。海の生き物がデカいの多いからってこんなんの相手ばっかりは勘弁してほしいもんだぜ。




