3尾の獣
「却下!!」
そんなもんで諦めるかよバーカ。だから言ってんだろ、『獣の力』の飼い方を教えてやるって。
切り離すとか追い出すなんて話は最初からしてねぇんだ。そもそも追い出せるもんでもない。
「『獣の力』は本能を過剰に刺激する力だ。追い出すとかそういうのじゃねぇ、そもそもに自分の中にある闘争本能がある限り、影響は0にならねぇ」
「そんな……」
「そこまで悲観することでもねぇんだって。ウチを見てみろ。同じように闘争本能を強烈に刺激する『固有魔法』を使ってコレだぜ。本能は本能である以上、コントロール出来る。今、目の前でして見せてるのが証拠だ」
なんなら『優しさ』のメモリーの中に入っているのは妖精のテレネッツァ。妖精である以上、『獣の力』になんの影響も受けていないっては言えない存在を自分に取り込んでいる状態で暴走してないんだから、この仮説ややり方は間違いではないって言えるだろ。
「それは良くも悪くもお前の力だ。だったら、自分の主導権を取り返すしかない」
「でも、私は……」
「一度負けたからもう二度と勝てねぇのか?」
サフィーはシャロシーユに身体の所有権を奪われている状態だ。だから問題なのは魂レベルで『獣の力』に汚染されたことよりも、シャロシーユに寄生されている状態の方。
だからサフィーはシャロシーユを身体から追い出せばいい。そうすれば身体の所有権が戻る。そうすれば『獣の力』に汚染されているとは言え、自分をコントロールすることは出来るハズだ。
そのためにはサフィーはシャロシーユに勝たなきゃいけない。そしてその後に『獣の力』に打ち勝つ必要もある。
難しい話なのは分かってる。今のサフィーは完全に自信を喪失している状態で、一度負けた2つの存在に戦いに挑んでそのどちらにも勝たなきゃいけない。
本人からしたら無茶苦茶言っているようにしか聞こえないだろうさ。でも、やらなきゃいけねぇんだ。
やれなきゃ、2度と元の生活には戻れない。
「こんなことで挫けるほど、ヤワな鍛え方をした覚えはないぜ」
「……でも、私はお姉さまとスバルたちに酷いことをして。皆さんを失望させてしまいました。私はもう、あそこに戻れません。また、ご迷惑をおかけしてしまいます」
「別にいいだろ。ちょっとの迷惑くらい、なんだってんだよ。ウチだって、散々迷惑かけたんだぜ。それに、お前のことに気が付けなかったのはウチだ。ごめんな」
山ほどに膨れ上がった後悔が完全にサフィーの心を折ってるんだろう。1つ2つの些細な後悔も積もり積もれば自分を殺せる凶器になる。
サフィーは怖くて堪らないんだ。また『獣の力』に飲み込まれたら、自分が何をしでかすのか分からない。
シャロシーユにあっさりと乗っ取られちまったのもそういうところからだろう。ただでさえ、とんでもないことをやらかした後だ。自分なんて消えて無くなった方が良いとまで思ったかもな。
それもこれも、ウチがちゃんとサフィーの様子に気が付けなかったのが原因の一つだ。どんだけ隠してたとしても、気が付かなきゃいけねぇんだ。
それがリーダーとしてのウチの責任で、姉貴分としての責任でもある。
「帰るぞ。絶対にだ。それ以外は許さねぇ」
「でも、でも……」
「大丈夫だ。ウチらがいる。負けそうになったらどうにかしてやる。だから、勝て。シャロシーユにも自分にもだ」
一緒に帰る。それはウチとしても絶対の条件だ。それ以外は許さないし、許されない。もし1人で帰ろうもんなら、千草に半殺しにされるんじゃねぇかな。
だから嫌とかじゃねぇけどよ。少なくとも、ウチは絶対にサフィーを連れて帰る。連れて帰るにはサフィーがシャロシーユを支配する側にならなきゃいけねぇ。
『獣の力』は最悪後回しだ。ふん縛って連れ戻して、鍛え直せばどうにかなるだろ。
『獣の力』をコントロールすんじゃねぇ。自分の本能を心で飼い馴らす。それが出来るようになるには絶対に時間がかかるだろうしな。
「……このやろ、う!!」
「お姉さま!!」
「気張れサフィー!! そいつをぶっ飛ばす。それだけだ!!」
出来る出来ないじゃねぇ。やるんだ。チャレンジしなきゃ始まらねぇ。




