3尾の獣
「いつまでめそめそしてんだ!! サフィー!!」
段々イライラしてきた。あんま良いことじゃないのは分かってる。分かってるが、こんなことで挫けるような情けない鍛え方を教えた覚えはウチにも実姉のテレネッツァにも無いだろ。
シャロシーユの言う通り、自分のミスでどうにも取り返しのつかないことになっているのをめそめそと泣いてばかりでこっちの呼びかけにも答えないって言うのなら、随分な言い草じゃねぇかよオイ。
「たった一度のミスがなんだ!! 取返しのつかないミスをしたって思ってんなら無く前に取り返せ!!」
力の無い、立場の弱い奴だったら、泣くしかないのは分かる。泣いて、泣いて、どうにか藻掻くか力のある誰かに救い上げてもらうのをじっと待ち続けるってのも有りだろうよ。
だが、お前はどうだ? 旧ミルディース王国の名家の出身で、レジスタンスの若手の筆頭で、魔法少女やレジスタンス団長からも一目置かれる実力の持ち主。
それが一度の失敗程度で立ち上がれないなんて言わせない。言わせてたまるかってんだ。
「ウチは何度だって間違えて、その度に折れそうになったぞ。でも、めげてない。なんでかわかるか!!」
この前までのウチ自身の特大のスランプ。目標を見失って、自分の苦手な部分にばかり目がいって空回りする日々。
それでも挫けなかった。挫けない様に努力をしたし、それを周囲に悟らせないように努力した。
「仲間の期待を裏切らないためだ!! お前は今までお前に期待してくれた奴らを全員裏切る気か!!」
強い奴は期待される。それには当然プレッシャーが圧し掛かるし、失敗が大きな非難になることだってあるさ。
それでも仲間全員から総スカン食らうことなんて早々無いだろ。そんなことになるのは本当に自分から仲間を裏切った時くらいなもんだ。そうじゃなきゃ、多少の不和は起こるかも知れねぇけど最低限の信用と期待は残るだろ。
それが一緒にやって来た仲間の信頼だ。信用だ。
サフィーのしていることはそれを自分からドブに投げ捨ててるようなもんだ。まだ信頼も信用も残ってる。だからウチが助けに来た。
お前は、それを自分から捨てるのか? 致命的なワンミスをしたってそれ以上の成果を上げれば良いじゃねぇか。
無くしたと思った信頼は自分が思っている以上に無くしていない。
「ウチはお前を助けに来たんだぞ!! サフィーだから助けに来たんだ!!」
ウチはお前に失望なんてしてないし、お前がそもそもクソでかい失敗をしたなんて思って無い。
他の連中だって、本気でサフィーリアが自分から裏切っただなんて思っちゃいないハズだ。だからウチがサフィーの救出に向かうと言っても誰も反対しなかった。
むしろ、お前がケツを拭いて来いって雰囲気すらあった。サフィーが何かに巻き込まれたり、その異変を気が付けなかったウチの責任の方が強いからだ。
だから助けに来た。何が何でも連れ戻しに来た。
「うだうだ言う前に帰って来い!! お前に教えることはまだ山ほどある!!」
「アホみてぇに帰って来い、帰って来い。無理なんだよ!! コイツは所詮、獣!! しかもよわっちぃ泣き虫の雑魚なんだよ!!」
『獣の力』に負けた自分がそんなに情けなくて認められないなら、ウチが教えてやるよ。
そんなもの、自分の意志で幾らでも乗り越えられるってことを。
「黙れカス。テメェには何も言ってねぇ」
「か、カスぅっ?!」
「サフィー、見てろ。これが『獣の力』の飼い方だ」
構えるのは『優しさ』のメモリー。別に『WILD BLUE』や『DEEP BLUE』とかのテレネッツァの補助を得た身体強化をしようってわけじゃない。
むしろその逆だ。テレネッツァは『妖精』だからな。その力は『獣の力』に影響を受けやすい。
「『固有魔法』」
ただでさえ、『WILD OUT』っていう『獣の力』に近い。或いはほぼ同義の闘争本能を直接刺激する身体強化魔法を使うウチらが『優しさ』のメモリーからテレネッツァの妖精の魔力からの強化を貰った上で使えばどうなるか。
「――『BEAST OUT』」
その結果はすぐに現れた。




