3尾の獣
渦と渦が何度もぶつかり合って、周りはすっかり更地だ。帝国王城らしい立派な建物の数々はすっかり崩れ落ちていて瓦礫が幾つも足元を覆ってる。
平坦なところは何処にもない。足場は悪くなっていく一方だな。そんなことでどうこうなるほど下手くそな戦い方なんてしねぇけどな。
「まだ足りねぇか」
んなことより問題なのは3本尾のショルシエの分身体、シャロシーユからサフィーリアを取り戻せていないことだ。
サフィーリアの身体に寄生する形で意識や人格を乗っ取ってるだろうシャロシーユをボコボコにすれば弱ったところからひょっこり顔を出して来ると思ったんだが、全然出て来る気配が無い。
「無駄だって何度も言わせないでほしいね。もう、サフィーリアなんてのはいねぇも同然なんだよ!!」
飛びかかって来るシャロシーユを迎え撃つために『ヴォルティチェ』を構える。
戦況はまあ五分ってところか。流石にショルシエの分身体。攻撃能力に関してはトップクラスだ。
対するウチはサフィーリアを助けることに注力している都合で全力では戦ってない。別に手加減した舐めプってわけじゃない。
本気で戦ってうっかりシャロシーユを殺してみろ。身体はサフィーリアなんだから、サフィーリアも死んじまう。
それはNOだ。ウチのエゴであることは重々承知だが、他のメンツも同じことをするだろうし、それをウチがしなかったらブチギレるだろうよ。
救えるかも知れない仲間を見捨てるなんて、ウチらの中では絶対に無しだ。救えるものは全部救う。欲張らなきゃ、理想は高く掲げなきゃ出来ることも出来なくなるってもんさ。
「言ってろよ。ウチは信じてやるだけだ!!」
渦を伴った肉弾戦に切り替えたシャロシーユは積極的に近づいて来る。パワーは少しばっか向こうの方が上。魔法の使い方とか技術的な面ではこっちのが上。
海属性魔法の撃ちあいじゃあ不利だと悟って肉弾戦メインに切り替えた辺りは冷静というか、戦況が見れてるのが厄介だ。
取り込んでいるサフィーリアから得た知識や経験から判断したモノだろうな。サフィーはウチとは違って、主に魔法を主体とした戦い方をする。
だからと言って、肉弾戦が出来ないわけじゃない。ハイレベルな戦いになればなるほど魔法戦も肉弾戦も同じくらいの割合になってくるもんだ。
どんだけ魔法が得意だ、肉弾戦が得意だって言ってもどっちかだけで勝てるほど上澄みの戦いは甘くない。
どっちも鍛えるのがセオリー。結局、突き詰めていくとバランスが良いのが一番強いんだよな。
『ヴォルティチェ』の柄で拳を弾き飛ばして体勢を崩してから蹴り飛ばす。それも受け止められたが掴まれた左足を軸に回転しながら右脚を側頭部にお見舞いする。
もちろん、海属性魔法を纏わせてだ。
『魔力解放』と『人魚』のビーストメモリーを使ったシャロシーユの体表には分厚い泥のような魔力の層がある。これを削るには魔法で削るしかない。
有効打を作るにゃ、こうやって表面の魔力層を削って、中の本体にダメージを与えるのが手っ取り早い。
他にも幾つかやり方はあるが、確実性は低いかな。手間というよりはデカい隙が必要なんだよな。
サフィーが自分からシャロシーユを追い出そうとしてくれるのが理想なんだが……。
「サフィー!! 起きろ!!」
「無駄無駄無駄ァッ!! お前の愚妹はウチの中でめそめそ泣いてそれどころじゃねぇってよ!!」
どうにもシャロシーユの中にいるサフィーリアの心がぽっきり折れちまっているらしい。ゲラゲラと嘲笑うシャロシーユの声がウザったくて敵わない。
ホントクソだよ。テメェが努力して得た力なんて一つもねぇくせに偉そうにしやがって。ショルシエから分け与えられたモノとサフィーから奪ったモノ、自分以外の誰かの力で戦ってる奴が偉そうにしてんじゃねぇよ。
「ちっと、黙ってろ!!」
「ごっ――?!」
ムカついたウチは『ヴォルティチェ』で魔力層を削った顔面に思いっきりグーパンチを叩き込む。あっ、やっちまったと思ったがそれよりも言いたい事が山ほどある。




