レッドゾーン
【IGNITION START!!】
魔法具でもあり、僕専用の強化アイテムでもある『エンジンギア』と『ギアチェンジャー』のセルを回して起動。
青白い閃光と一緒に周囲に轟くエンジンと排気音の爆音が辺り一帯に響き渡ります。
ここまでは、今までと一緒。この状態で出来る強化はGEAR 5thまで。それで対応出来たのは4本尾のカトルに勝てるくらいっすかね。
スピードはこの時点で他の魔法少女に負けることは無いですけど、僕としてはもっと速く動けるはずなのに身体が付いて来ないっていう物理的な壁にぶち当たっていました。
それを破るには僕の努力云々じゃなくて、道具のサポートを借りる必要がある。それがお父さんと東堂さんを含めた技術者の人達の意見でした。
「……ナんだぁ、それ」
「僕も実戦で使うのは初めてなんで詳しいことは知らないっす」
魔力を『エンジンギア』にガンガン注ぎ込んで、鳴りやまないエンジン音と一緒に足元にメモリと針が浮かび上がります。
見た目は車のメーターですね。エンジンの回転数を表示する回転計によく似たそれが、魔力をぐんっぐんっと注ぎ込んでエンジン音が轟くのに連動して、緑から黄色、黄色からオレンジ。そしてオレンジから赤へと変化していきます。
音はどんどんと大きくなり。周りの音が聞こえないくらいの爆音。『轟雷の魔法少女』の名前らしくて良いですね。
「それじゃ、練習走行に付き合ってもらうっすよ」
【WARNING!! RED ZONE!!】
「『轟雷チェンジ』」
足元のメーターが真っ赤に染まって、僕は『もう一度変身』しました。
「へぇ、そんな事出来るのね」
「流石に僕が世界初だと思いますよ。変身した後に変身するのは」
飛び散った火花と轟音が止んだ頃には、僕の姿はすっかり様変わりしていました。ついさっきまでは魔法少女らしい、それなりに可愛らしい格好で如何にも快活な魔法少女って感じの姿だったと思うんっすけど。
今の姿はどっちかっていうと無骨って言えると思いますね。首を中心に関節を強化保護するための銀色の薄い装甲。それを繋ぐ青白いラインが脈打つように明滅を繰り返しています。
それは魔法少女ってよりは男の子向けの特撮ヒーローに近い雰囲気があると思います。まだ鏡も見てないからわからないですけどね。
少なくともニーチェに説明した通り、変身した後にもう一回変身するのは僕くらいでしょうね。
東堂さん曰く、安全を期すための2段階変身だそうです。いきなりこの姿になるのは身体に強い負担がかかる可能性があるとかで、変身するにもこの姿になる前にいつもの姿で10分は身体を温めるように言われました。
「ソりゃなんだ? 変なヤツだな、お前」
「アンタに言われたくないっすね。不定形な生き物ほど変な生き物もいないですよ。こちとら強化外骨格っていうカッコいい名前があるんすよ」
僕が僕の限界を万全に引き出すために、関節や筋肉、骨、内臓。脳を守るためにはこうやって外側から強化する以外に方法が無かったらしいです。
この薄い装甲に人間界と妖精界の技術の粋が詰まりに詰まっているとお父さん、東堂さん、ピット博士が鼻息荒く言っていました。
というか、その並びにお父さんがいるのがおかしいと思うんっすけどね。だってただの自動車整備士がなんでそこにならんでるんっすかね。
「ンで? それで何が出来んだよ」
「それを今からアンタで試すんっすよ」
軽くそう言って、一歩踏み出した。たったそれだけ。距離で言えば離れてるのは15mくらいっすね。
「とりあえず、一発です」
瞬き1つもしない内に僕の脚はチェッドの横っ面に突き刺さっていました。
身体が興奮で沸き立つのを感じます。あぁ、やっとイメージ通りに身体が動く。なんの違和感も無く、思い描いていた通りに動くことがこんなにも嬉しいですね。
思わず上がる口角を隠し切れないまま、吹き飛んで行ったチェッドを追い越して拳を構え、振り抜く。
また吹き飛んだチェッドを追い越して吹き飛ばして追い越してを繰り返しました。




