レッドゾーン
「因みに言っておくけど、増援に来られたのは私だけだからね」
「そりゃ人間界を手薄にするわけにもいきませんからね」
今回、増援として派遣されたのはニーチェだけらしいっすね。当たり前っすけど。もう妖精界には『魔法少女協会』の可能な限りの最大戦力を投入しているわけで、これ以上の戦力投入は逆に人間界を手薄にさせます。
ニーチェは元々強引に妖精界に来てましたから。轟きの遺跡で僕の負担を肩代わりしてもらって、その後は護衛を務める予定でした。それもすっ飛ばしてこっちに来たわけです。
どうなんです、それ? とは思わないことも無いですけど、番長辺りがOK出したんだと思ういます。もう既に想定外の状況っすからね。
「轟きの遺跡の調査団は一旦人間界に引き上げたわ。そっちの方が警護しやすいから」
「なるほど。確かにそっちの方がまとめて守りやすいっすね」
守るところを固めるのは妥当な判断っすね。轟きの遺跡で必要な調査は一通り終わったという判断だと思うっす。
人間界に側に調査員やら機材やら発掘したモノやらをまとめて引きあげて、遺跡の中身はもぬけの殻状態ってところっすね。人間界もどうなるかわからないっすから出来るならそうした方が守る側としてはコストがかからなくてなるわけです。
ショルシエが妖精界だけを滅茶苦茶にしようとしているわけじゃないのは僕らもよくわかってるっすからね。
じゃなきゃ、3年前にあんなことになってないっす。
更に言うなら、S級魔獣そのものがショルシエが発生原因だってことらしいっすからね。しかもそのうちの一体、『人滅獣忌 白面金毛の九尾』はそもそもショルシエそのものの可能性すら指摘されて、真広さんとウィスティーさんが封印されている現場に向かっているっす。
そういうのもあって、人間界の警戒も最大級に高まってます。どこで何が起こってもいいように腕利きが各支部に常駐してるみたいっすね。
「ドンナさんは?」
「『破絶の魔法少女』からの緊急連絡で招集されたわ。人間界でも動きがあったみたいね」
「……そうっすか」
僕ら2人の師匠でS級魔法少女の『雷鳴の魔法少女 ドンナ』さんはウィスティーさんに呼ばれたみたいです。
ってことは、『人滅獣忌』の方で何かあったってことっすね。真広さんの予想はズバリ的中したってワケです。
あぁいう分析は姉弟揃って凄まじいものがあるっすね。特に真広さんまだ詳しくわかっていない事をいま分かっていることから予想するのが得意って印象があります。
逆に真白さんは今ある情報を整理して、その先を予想するのが得意って感じですね。
「で? 雑魚はぶっ飛ばして良いの?」
「この人達は操られた一般人だからNGっす」
「んじゃ、こうね」
僕から状況を聞くと、ニーチェは踵で床をダンっと強く蹴り、周囲に電流をばら撒きました。
荒っぽい事するっすねぇ。まぁニーチェは僕より魔法が得意ですから、こういうことにも調整効くんでしょうけど。
「これ、大丈夫です?」
「まぁ妖精界の住人は人間より丈夫だし大丈夫でしょ」
ニーチェに感電させられて、ところどころから煙を吹いているお城の勤め人の方たちには同情します。すんません、僕が不器用なばっかりにこんな荒業になってしまって。
「正直、殴って気絶させるより良いと思うわ」
「それは、まぁ」
僕のやり方になると殴って気絶させる以外ないっすからね。外傷が少ないだけ、マシなんっすかねぇ。
どっちにしろな気もしますけど、このくらいで済んだ、で勘弁してもらいましょう。
「二手に分かれるっす?」
「そうした方が効率は良いけど、敵の本拠地で1人は避けたいところね。何があるかわからないし」
「それじゃ、お城勤めの人達を出来るだけ集めて、気絶させて運び出すって感じで行きますか」
「足の速いアンタが集めて、私が気絶させてある程度溜まったら縛り上げて安全地帯まで運ぶ。自分で言ってても情けないくらい地味な仕事ね」
そんなこと言って、大事な仕事っすからね。民間人の保護ほど重要な仕事も無いと思うっすけど? と言うか、魔法少女の仕事の大半なんてそれじゃないっすか。
「私は派手な仕事がしたいの」
「相変わらず目立ちたがりっすねぇ。そんなんだから彼氏出来ないんっすよ」
鬼の形相で追いかけて来たニーチェから逃げながらお城勤めの人を探して今いるホールに誘導しましょうかね。
こういう地味な仕事が全体の作戦の成功に繋がるんすから、ちゃきちゃきやるっすよ。




