レッドゾーン
「いやぁ、笑っちゃうほどキリが無いっすね」
皆を送り出してから、僕はずっとお城のホールの中で戦っていました。ずっと、って言ってもまだ30分もしないと思いますけどね。
こうも同じことの繰り返しってなると時間感覚も狂って来るってもんですよ。
「全員気絶させるにも時間がかかるんすよねぇ……」
僕の周囲を取り囲むのは『獣の力』によって暴走させられているお城に勤めている人達。長い時間『獣の力』に侵されたせいで種族関係なしに暴れまわっちゃってますね。
こうして間近でよく見ると『隷属紋』での暴走状態に似てるっすよね。確か、紫ちゃんが言うには『隷属紋』のほうが『獣の力』で妖精を暴走させられているのを真似しているらしいっすね。
なんて割とどうでもいいことを考えつつ、まだまだたくさんいる人たちをどうやって無力化していくかを考えます。
この人達が暴走状態である限り、僕らに襲い掛かって来るわけですから戦いの中では滅茶苦茶邪魔っす。
単純に戦いの邪魔にもなりますし、厄介なのは肉の壁として使われる可能性っすよね。ショルシエ達はこの人達のことはどうでもいいっすけど、僕らからしたら暴走させられてしまっているだけの一般人。
殺しちゃうわけにはいかないですからね。この人達は被害者でなければならないんですよ。被害者に何かしたら僕たちもショルシエ達と同じになっちゃいますからね。
だから、出来るだけ無傷で無力化しなきゃいけないんっすけど、まぁそんな都合の良い方法なんて早々無いわけですよ。
気絶させれば~、なんてよくある展開ですけどそれだって一人ずつやってたら日が暮れちゃいますし、無差別に気絶するダメージを与えるのは普通に危険。
魔法は万能じゃない。真白さんがよく言ってますけど、ホントその通りですよねぇ。どんなに凄い力を手に入れても、どうにもならないことはどうにもならない。
僕も今回の戦いの準備の中で色々アップデートしましたけど、この状況を簡単にどうにかするのは難しいっすもん。
理論上は、結構とんでもない力を手に入れた自覚はあるっす。ただ、それが使えるのはせいぜい一度きり。
今こんなところで使うモノじゃないっす。もっと重要な局面。出来れば、ショルシエとの戦いの中で使うべき力。
出し惜しみして使わないはもっと論外っすけどね。エリクシール症候群、でしたっけ? 貴重なアイテムとかを貴重だからって言って必要なタイミングで使えないことを言うんですよね。
そういうのでは無いっすから、後は切りどころを間違えない事。この力について真白さんに話した時は「流石、切り札の一枚として考えていただけあるわ」、なんて言われたっす。
僕なんかが切り札扱いなんて照れちゃいますけどね。でもそれだけ期待されているってことっすから期待にはちゃんと応えたいです。
真白さんは実力と才能に見合った結果をきっちり求めて来るし、出来ないことは言わないっすからね。
そういう人を見る目であの人を超える人は世界中探しても何人もいないと思う。真白さんが出来ると言った事はその人が出来ないと思っていてもやったら出来たるんっすよ。
真白さんの言葉はそれだけで誰に言われるよりも自信になる。それが分かるとあの人がどんだけ人たらしなのかもわかりますよね。
勝ち船確定演出で、自分がそのクルーとして認められている。これ以上の安心感と信頼を超えるモノなんてその辺にあるもんじゃないっすよ。
「耐え、っすかねぇ。とりあえず出来るだけここに人を集めて、他の人のところに行かないようにだけしないとっすね」
「アンタは相変わらずバカね。苦手なことは他人に振りなさいよ」
『繋がりの力』で『獣の力』を無力化出来るまでは消耗戦だなと思ったところで、聞き覚えのある声に少し驚くっす。
いや来るとは思ってたっすよ正直。黙って指をくわえて見てるわけが無いって思ってたっすからね。
「ここまで狙いすましたタイミングで来るのもどうなんです? もしかして狙ってた?」
「失礼ね。これでも指令が来るまで大人しくしてたのよ」
「ニーチェが? 明日は槍でも降りそうっすね」
「大急ぎで来てあげた姉弟子に好き勝手言ってくれるわね、クルボレレ」
増援にやって来たのは僕の姉弟子『豪雷の魔法少女 ニーチェ』。僕と並んで、現役最強の雷属性使いの魔法少女って言われているっす。




