決意と覚悟
「道を開ける!! 飛び込んで!!」
懐に飛び込ませないことを意識している『人滅獣忌』にこの中で最も攻撃能力が高いだろうウィスティーが声を上げ、振りかぶる。
斧槍から発せられる破壊属性の魔力に俺と高嶺 悠はげぇっと顔を歪ませてから急いで身を屈めた。
「『固有魔法』ァッ!!」
破壊属性は文字通り物質などを一方的に破壊する属性だ。実態は音属性の派生属性で、魔力が細かく振動することで物質の結合を破壊するわけだが、これは当然人体にも影響する。そして大抵の場合、無差別だ。
「『巨神殺し』!!」
つまり目の前に破壊属性の魔力で巨大化された斧槍型の魔法具は触れるだけで人体にダメージが入るわけだ。そんなものをこんな至近距離で使うな。
頭の中で文句を言いながら、『不動』の力を使いカトルに対して使った高速移動の準備をする。隣の高嶺 悠も構えており、何かしらの高速移動の手段を持っている様子だ。
『人滅獣忌』目掛けて放たれた巨槍の矛先とその一帯は破壊属性によって消し飛び、回避行動を取った『人滅獣忌』の攻撃は一瞬だけ途絶えた。
そこを逃すことなく飛び込んでいった俺達は一気に懐に飛び込むことに成功した。
「『峨峨地籟――』
「蔓延れ――」
「『弁柄大蛇』!!」
「『蔓』!!」
退こうとする『人滅獣忌』を逃がすつもりも毛頭無く、俺達は攻勢を強めるべく大技をけしかけていく。
岩と土の塊で出来た巨大な蛇と蔓のような見た目をして幾つもの斬撃がそれぞれ地を這うようにして飛び出して行き、『人滅獣忌』に絡みついて噛み付き、切り裂いて行く。
「ギャアアアアァッ?!」
この戦いで初めてのダメージを受けた『人滅獣忌』が悲鳴に似た叫びをあげるが大して効いてないだろうが。
その証拠に憎悪に満ちた充血した眼球がぎょろぎょろと動いたあと、俺達に正確に向く。ようやくコイツは俺達をその辺にいる有象無象ではなく、敵として認識したらしい。
これで俺達を無視してどこかに行くということは無くなっただろう。少なくとも要らない被害の心配はこれで減った。
「ここからが本番かな?」
「そういうことだ」
至近距離で展開された魔法を見て冷や汗が出る。バカげた魔力量が込められたそれが一体幾つあるのやら。
そんなものをこの距離で撃てば自分ごと吹き飛ぶと思うのだが、そんなものはお構いなし。そもそも自分の魔法で傷付く心配が無いのか、あるいはこれだけの魔法でも『人滅獣忌』には些細なダメージにしかならないのだろう。
殺到する魔法がスローモーションに見えて来る。今までの経験が身体を突き動かして、魔法の隙間を縫い、駆け抜けて行く。
「だりゃあああっ!!」
最後はウィスティーが直撃コースの魔法を破壊して何とか事なきを得た。同じように高嶺 悠も無事生還すると短い作戦会議が始まる。
「あぁもされると近づきようが無いね。近付いたら自爆紛いのアレだ。そのくせ本人はケロッとしてると来たもんだ」
「流石はS級。何もかもがバケモノじみているな。ウィスティー、何か使えそうな過去の戦闘情報とかは無いのか?」
「生憎、私は直接戦ったわけじゃないからさ。ただ、『人滅獣忌』の戦い方は周囲に配下を何匹も生み出して戦うもっとえげつないやり方だったハズ。本調子じゃないのは確実だと思う」
ファースト世代の魔法少女であるウィスティーからは一応、ポジティブな情報が上がって来るが、同時に本調子でないのにコレかというネガティブな捉え方も出来る。
封印から目覚めたばかりというのが影響しているのか、はたまた別の何かか。少なくとも本来のやり方ではないと言うのならマトモな状況だと無理矢理思い込むしかないか。
「なんにせよ、懐に飛び込んで大技をぶち込む以外に方法は無さそうだな」
「だね。問題はどうやってその隙を作るかだけど」
「それは戦いながら探るしかないよ」
自ら放った魔法で上がった土煙の中から、ギラつく魔力の揺らめきが見える。直後に魔法と共に飛び出して来た『人滅獣忌』の攻撃を避けながら、俺達は隙を探すという無茶を遂行するしかなかった。




