決意と覚悟
「舐めるなよ、人間風情があああああぁっ!!!!」
怒りに身を任せるカトルがでたらめに魔法を放つ。こうなってしまえば、頭のいいフリをしていたカトルも他の分身体と何ら変わりない。
頭を使って戦う様子を見せた時は正直冷や汗ものだった。分身体とは言え、持っている魔力は膨大で暴力的なのは変わらない。
魔法の撃ち合いによる持久戦に持ち込まれた場合、不利になるのはどうやったってこっちの方だ。
だから基本的に乱戦を制する、あるいはあちらを一方的に消耗させるような耐久戦をする必要がある。
俺に出来るのはあちらに消耗を強いる方法だ。真っ当な殴り合いも出来なくは無いだろうが……、このあと『人滅獣忌』との戦闘があることも考えれば、出来るだけこちらの消耗は避けたい。
地面を殴りつけ、めくれ上がった岩の塊で魔法をやり過ごす。こうなると困るのはこちらには遠距離攻撃の手段が乏しいことだ。
せいぜい岩か土の塊を放つくらいか。土属性と岩属性、どちらも近距離戦に向いた属性である以上、付き纏う欠点と言わざる得ないな。
「多少はリスクを負わないとダメか」
消耗は避けたいが、ノーリスクで物事が進むことなんてそう無い。ここはリスクを取って、リターンを多く貰うことにしよう。
魔法が途切れた一瞬のタイミングで岩壁の影から飛び出し、距離を詰める。襲い来る魔法の数もそれに込められた魔力の量も先ほどの比ではない。
切り裂く魔法もこれだけの数と魔力量を捌き切るのは無理だ。数もそうだし、魔力量の多い魔法は術式を解体するのに時間がかかる。
さっきまでのようにすれ違いながらやれるのは数回くらいか。
避ける魔法、防ぐ魔法、切り裂く魔法を的確に判断しながら進まなければならないわけだが、そこは日頃の訓練の成果ってヤツが出て来る。
何せ、俺らの中ではこれを遥かに超える物量や火力で押し切ろうとしてくる魔法少女だらけだ。
模擬戦をする度にボコボコにされる身からすれば、カトルのそれはこちらの退路を狭めていくような計画性も無い、ただ魔法をばらまいているだけ。それはそれで嫌なモノはあるが、不規則を装った詰将棋をされている時よりは遥かにマシだ。
「人間の、劣等種の分際で!!」
「その劣等種とやらにあっさり追い詰められているようでは、どっちが劣等種かわからんな」
距離を詰めていく俺を見て吠えるカトルはもはや滑稽にも映って来る。
劣等種、か。お前ら『獣』とやらが何なのか、どこから生まれた存在なのかは知る由もないが自らを高尚な存在だと信じて疑わない無い姿には虫唾が走るのを飛び越えて哀れみすら感じる。
じゃあお前は一体何者なんだと問いたい。何を成して、何かになったのか? ショルシエの分身体というハッキリ言えば劣化コピーの存在であるお前らが、生命として上位種であることを疑わない様子は陳腐にしか映らない。
かつての俺も、似たようなモノだったんだろうなと思い返しながら、ズンッと足を踏み込み地面が割れる。
『不動』のメモリーで一瞬だけ自身の重さを増した。重さは動けばエネルギーになる。地面から数センチ沈み込んだだけとは言え、地面を割るほどのエネルギーをほんの一瞬だけ足に込め、すぐに解除。
残ったエネルギーは俺を弾丸のように前に進ませるための推進力へと変化する。
「……?!」
「鈍重とされる土と岩の属性が高速移動をしたのがそんなに驚きか?」
頭が良いことを散々アピールしていた割には、勉強不足にもほどがあるぞ!!
一気に距離を詰め、再び『不動』のメモリーの能力で急ブレーキをかけるとカトルの顔面を『土竜』の爪と外殻で覆われた右手で掴み、そのまま地面へと叩きつける。
ここでも容赦なく『不動』のメモリーの能力を使い、竜の膂力と重さによるエネルギーをぶち込めばカトルはその身体を地面へとめり込ませる羽目になる。
「魔法ってのはどこまで行ってもエネルギーだ。科学の理屈がどれもこれも通用しないわけじゃないってのは覚えておくとちょっとは良いかもな」
質量保存の法則とか、慣性とか、中学生レベルでも知っておけばこのくらいの応用は出来るんだよ。




