決意と覚悟
さて、コイツの底は大体知れた。あまり遊んでいる暇はないし、封印が解けてからが本番。コイツとの戦いはハッキリ言ってオマケだ。
何せメモリーの3枚挿しはここが初めてだし、俺の力がこいつら『獣の力』にどこまで特効能力があるのかを実証出来るいい機会だ。
ギアを一段上げ、地面を強く踏み込んで飛び出す。迎撃に放たれた魔法を次から次へと竜の爪で切り裂きながら突き進み、やがて尾による物理的な攻撃も混ざって来る。
「まずは一本だ」
伸びて来た尾を掴む。最初と同じ構図で、それに対して俺は竜の爪を振りかざす。カトルは当然、同じように尾を引っこ抜こうとするが掴まれた尾は微動だにしない。
次は俺ごと振り払おうと尾に力を込めている様子だが、それすらビクともしない。
俺自体が、まるで巨大な岩山のようにそこから数ミリも動かない。ガンテツの爺さんの魂が入っている『不動』のメモリーの能力だ。
岩属性の強化だけじゃない。重さを操れるようになるのが『不動』のメモリーの能力。これがまた、案外使い勝手の良い能力なんだよな。
「あ、ぎゃあぁぁぁっ?!?!」
掴んだ尾に振り下ろされた竜の爪はあっさりと尾に食い込み、切り裂いた。まるでバターのような感覚だ。肉を断つのとは違う、殆ど抵抗も無く切り落とされたのは違和感すら感じる。
「ああぁぁぁ!! お前、お前、お前、お前ぇ!!!!」
「そんなに尾を切り落とされたのがご不満か? 悪いな、俺の能力はお前らにとってとびっきりの特効能力らしくてな」
相当に痛むのか、のたうち回るカトルを見てもう一度鼻で笑う。血走った目が興奮している獣のそれだ。
だからこそ、こいつらには『医師』のメモリーの能力が特別に効く。
『医師』のメモリーには魔力を強化する能力も、属性を追加したり強化したりする能力も無い。何せ、中に入っているのは魔力も無ければ戦った経験も無いごく普通の人間の男だからな。
俺と真白の父親、小野 真司のことだが。コイツは本当にただの人間だ。あえて言うなら優秀な医者だった、ということくらいか。
「『獣の力』への対処方法の1つは『繋がりの力』なのは間違いない。特に帝国の持つ『繋がりを断つ力』はお前達『獣の力』を擁する連中にとっては天敵のようなものだろう」
飛んで来る魔法を竜の爪で切り裂いて無力化していく。これだって普通じゃない。魔法を切り裂くなんてごく一部の超技術だ。
普通なら相殺だ。しかも、俺のこれは切り裂くだけじゃなく、切り裂いた後に魔法そのものが形を保てなくなって霧散していることを奴は気が付いているだろうか?
切り裂いただけなら、切り裂いた魔法が俺の後ろに真っ二つになってどこかで着弾しているだろう。
そうじゃないことに気が付いているかいないかが、ちゃんと頭が良いのかって話にも繋がるんだがな。
「だが、お前達が知らないもう一つの特効能力が俺の持つ『医師』のメモリーの能力だ。何故か分かるか?」
「なんのっ、話をしている!!」
「『医師』の仕事は病気を治したり、怪我を治療したり、病巣を手術で取り出したりすることだ」
『医師』の能力の基本は、医者としての知識と経験を得られることだ。優秀な医者であった小野 真司という俺達の父親の知識と技術は相当なもので、特に親父は外科医療に精通していたようだ。
真白が治癒魔法を使えない時、代わりに外科手術を行って応急処置をすることが出来るくらいにはな。自分を治すことも出来たりするが、今回はそれじゃない。
「まだわからないか?」
「それは、魔力も何も無い、ただのクズメモリーだろう!! そんなものに能力なんてものは無い!!」
「だからお前はバカなんだよ」
自分の身に起きていることを受け入れられない。理解出来ない、認められない。所詮は考える頭も無い『獣』だ。
「『医師』のメモリーの能力は治療する能力だ。お前ら『獣』という世界の悪性を切除し、無害化出来るのが『医師』のメモリーの能力だ」
何も『医師』のメモリーが治療できるのは生き物だけじゃない。世界と言う患者の病巣を除去するのは当たり前だろ?
「もう一度言ってやる。俺が、貴様と言う悪性を切除してやろう」




