決意と覚悟
カテーナが離れたのを見届け、俺達は現場まで向かう。瘴気はどんどんと強くなっていく。こんな中でもマスク無しで平然としているウィスティーは流石だ。
おそらくは魔力で防護膜のようにしているのだろうと思うが、普通に高等技術だ。
魔力の量もコントロールも高い水準が要求されるからな。A級の魔法少女でも出来ないヤツは出来ないだろう。例えば、クルボレレはこういうのは苦手だろうな。
こういうところでベテランであることを見せつけて来るのは流石だ。
「わざわざここまで来るとは、ご苦労なことだ」
「そっくりそのまま返すよ。まさか君達に先読みされているとはね」
本来、封印されて岩のような状態になっている『人滅獣忌』の隣にいたのはショルシエの分身体の1人、四本尾の確かカトルだったか。
薄ら笑いを浮かべながら、俺達がここに来ていることに驚いているらしい。そう言う風には見えないが、そうやって自分が驚かされたりしたことを余裕があるうちは顔に出さないのはショルシエと変わらんところだろう。
余裕が無くなって来ると、苛立ちや罵声などが出て来るからわかりやすい。
「勘だったが、当たったらしいな。おかげで自分の役割を遂行出来る」
「随分と余裕じゃないか。いいのかい? これはお前達人間にとって最悪な存在だろう?」
「織り込み済みだ。予想通りの動きをしてくれて、こっちとしては助かっている」
立てた予想の通りにことが運ぶことほど、運の良いことも無いだろう。たいていの場合は微修正が必要なものだからな。
ここまで予想通りに事が進めば、特に文句の出しようも無い。
俺は、俺の仕事をするだけだ。
「ふぅん、そうかい。なら死ねよ」
動揺などを見せなかったのが面白くなかったのだろう。最初に見せていた薄ら笑みを早々に消すと、脈絡なんとものは殆ど無しに尾を伸ばして攻撃を仕掛けて来る。
速い。確か、クルボレレと相討ちしたと聞いていたが、その情報から得ていた攻撃速度よりも明らかに速い攻撃速度。
だが、狙いが分かりやすく首だ。半身を引いて、最小限の動作で避けると俺は躊躇いなくその尾を片手で掴み、その尾を切り取るべく、もう片方の手に作った魔力の刃を振り下ろした。
「流石に尾を切り取られるのは嫌なようだな。4本が3本になったところで大差無いとは思うが?」
「お前……」
流石にあっさりと躱されるが、この挑発には乗ってくれるらしい。単細胞で助かる。妖精もそうだが、獣にとって尾の数とはそのまま強さに繋がるモノだ。
尾が増えれば増えるほど、魔力が多く強い個体という証明だ。奴らにとってはステータスでもあり、誇りでもある。
一般妖精が1本。少し腕っぷしが良い妖精で2本。戦う術を持っているヤツで3本。軍人クラスが4本以上。
ってのが目安の1つだ。無論、目安だから例えば4本と4本で同じ実力というわけでは無いが、少なくとも3本尾が4本尾の妖精に勝てることは稀らしい。
分身体の場合はまた基準となる目安はだいぶ違うようで、1本尾のエネですら並みの軍人程度ではそう簡単に勝つことは出来ないだろう。
つまり基本的なルールは一緒だが、妖精とショルシエの分身体とでは基準値が違うということだ。
並みの妖精の4本尾では分身体の4本尾、今目の前にいるカトルに勝つことはほぼ無理だろう。筆舌にし難い、魔力量の壁があるはずだ。
「そんなに僕と戦いたいなら戦ってあげるよ。これの封印が完全に解けるまで、君が起きていられると良いね」
「お前が、の間違いだろ? こちらが何の対策もせずにいると本当に思っているのか?」
俺がこんな無謀にも近い話を持ち出して、自分が危険な作戦に飛び込んでいったのかと言えば、勝算があるからだ。じゃなかったらこんな死にに行くような真似はしない。
「『Leaf vein』」
【『Leaf vein』!!】
【『土竜』!!】
【『医者』!!】
【『不動』!!】
『繋がりの力』を起動して、3枚のメモリーを構える。出し惜しみは嫌いでな。最初から切れる手札は切らせてもらうぞ。
【『Triple vein 』!!】
「――『変身』」
『土竜』、『医師』。そして『不動』。先の暴走事件で、俺を庇って死んだ、ガンテツの爺さんが残したメモリーを使ったメモリーの三枚同時装填。
これが今の俺に出来る最大戦力。
「『竜撃のシャドウ』。今から貴様の悪性を切除する」
白衣と仮面、そして強靭な竜の爪に身を包んで、戦いが始まった。




