決意と覚悟
「元最強でも規格外は規格外か」
「元、は余計だよ。別に最強の座を明け渡したつもりは無いよ。あっちの方が見た目が派手だからね、世間的にそう言われるのは仕方ないのには納得してるけど」
張り合うのは勝手だが、規格外の方にはツッコミを入れないのかよ、と内心思いつつ、それは失礼した、と返すだけ返しておく。
事実として、世間的に『破絶の魔法少女 ウィスティー』は元最強と認知されているが、別に格落ちしたわけでも実力のピークが過ぎたわけじゃない。
むしろ、強くなっていると言って良い。3年間の修行の中で強くなったのは何も俺達だけではないというわけだ。
「『人滅獣忌』が復活するって話は本当なんだろうね?」
「誰も確定したとは言って無いんだがな……。可能性があると俺は考えている。ショルシエの本体、あるいは多くの力を分配した分身体じゃないかと俺は考えているだけだ」
なんでどいつもこいつも復活するのが確定事項みたいな言い方をするんだ。情報伝達がどっかでおかしくなってるんじゃないのか?
溜め息を吐きながら情報を訂正して、封印され岩のような姿になっている『人滅獣忌 白面金毛の九尾』を見る。
封印されているというのに、なんて巨大な気配と魔力だ。瘴気と呼ばれるおそらくは呪い属性を含んでいるだろう魔力が延々と漏れ出ているのもその雰囲気を増させている。
「成程ね。確かに『人滅獣忌』強さは他のS級と比べても頭ひとつふたつ抜け出てたしね。もし本当なら、君1人では対処し切れないか」
「実力不足は認める。俺はあの中で一番弱いからな」
「それを認められるのは君の強さだね。で、どう? 実際に目の前にしてみて」
もし本当なら俺だけでは対応なんて出来っこない。やはり実力としてはトップクラスのシャイニールビーかフェイツェイのどちらかを配置するのが妥当だ。
しかし、あの2人には別途仕事がある。妖精界は妖精界でショルシエを強く牽制しなければならない以上、人間界での可能性がある程度の話にはリソースは割けない。
実力だけで見れば、俺は全く不相応だが、これが限界だと認めるとウィスティーはそれを満足そうに笑いながら頷いている。
俺が自分の実力を分かったうえで、必要な人材を要請していることに満足している様子だ。まぁ、実際に要請したのは番長なわけだが、その辺を拒否しなかったというのがウィスティー的には評価できる部分なのかも知れない。
修羅場の潜った数なら俺達の上を行くだろうからな。後輩が正しい判断をしていることが嬉しいのかも知れん。何度となく、間違えた判断から命を落とした仲間を見て来た側だろうしな。
「……俺はそこまでハッキリわからないが」
「が?」
「ビンゴ、だろうな」
さて、ウィスティーの要望に応えると俺の予想は多分当たった。少なくとも、目の前の存在がショルシエと全くの無関係ではなさそうだ。
長い時間、妖精界にいてショルシエ達と接触、実際に戦うこともあったからこそ違いが分かる。
目の前にある岩のようになった『人滅獣忌』からは俺が直接対峙して来たショルシエ達と同じ気配を感じる。
それは本来なら魔獣からは感じない『獣』の気配とやらだと言うのを俺は知っている。
真白の方がこの感覚には敏感に反応するだろう。アイツの方が妖精の王としての血が濃いのは明確だからな。
薄い方の俺ですら感じるのだから、コイツから発せられる『獣の力』の気配は少なくとも分身体に相当するレベルで多いということだ。
「内から封印を破るのは無理。あの人の封印をかけられた側が破るなんてとてもじゃないけど考えられない」
「だな。魔力の活性等は全く感じられない。俺から見ても完全に封印されている」
「だとするなら、やっぱり外部からだね」
「あぁ、おそらく既に周囲にいるか小細工を仕組んでいるハズだ」
小言でカテーナに聞こえないようにこの部分は話す。何せ、彼女達からすれば俺達のしようとしていることは前代未聞。あってはならないことで、彼女達にとって大失態でもあるからだ。
「動くのは封印が解けてから、ね」
「あぁ、一旦この場から引いて気が付いていないフリをすれば釣れるハズだ。奴らにとっても時間をかけられないだろうからな」
俺達はこの封印が解かれることをわざと待つからだ。『封印監視室』の魔法少女達からすれば、これはとんでもない裏切り行為になるのは間違いようが無い。




