決意と覚悟
「それにしても、本当ですか? 封印が破られるというのは?」
そんな超重要な部署、『封印監視室』に舞い込んで来た封印が破られるかもしれないという情報にカテーナは耳を疑っている様子だった。
「可能性の話、だな。俺達が戦っている敵の狙いの1つが『人滅獣忌』そのものだと睨んでいる」
「正直に言えば信じられませんね。『封絶の魔法少女』の封印に綻びはありません。通常、あると言われている封印の劣化の気配すら私達の観測では無いのですけど……」
「封印の内側からの攻撃はほぼ完璧なんだろう。だが、外からの刺激はどうだ? それを試したことはないだろう? 俺は外部からの攻撃の可能性を考えている」
「本部が注力している敵の刺客が来る、と?」
封印が破られるとは思えないと強く言うカテーナ。それは俺も同意だが、それは封印を内側から破ろうとすることに対しての封印の強さはそうなのだろう。
『封絶の魔法少女』の封印を怪しんでいるのではなく、恐らく今までされてなかった封印への外的刺激。
つまり外側からの攻撃を受けた場合には封印の強さと言うのは内側からのそれよりは脆いのではないだろうか。
その方法について具体的なモノが分かる訳も無いが、何も無ければ笑い話、何かあった場合は笑い事ではないという両極端な話だ。
「俺だって何も無ければ無い方が良いと思っている。ただ何かあった時に迅速に対応したい」
「成程。保険、というわけですか」
「なにも無いことを祈っといてくれ」
そう、これは保険だ。杞憂であるならそれに越したことは無い。……が、俺の予感では嫌な気配がビンビンとしている。
何かが起こるような気配だ。困ったことにこういう時の俺の勘というのは妙に当たる。普段は運が無いとまで周囲に言われるくらいに勘が当たらないのにな。
いや、運が無いからこういうことになるのか。何が起こるのかは分からないが、大なり小なり何かトラブルが起きる気配がする。
「間もなく到着します。マスクの装着をお忘れなく」
荒れ果てた道を進んで行って、ようやく着くらしい。時間にすれば軽く5時間近くかかっている。
昔は俺達の住む街から来るまで小一時間だったらしいのが5倍の時間がかかるって言うんだから人間の住む地域がどれだけ縮小し、流通網が制限されているのかが身をもってわかるな。
「しかし封印されていても漏れ出る魔力が呪いとなって周囲を蝕むとはな。S級魔獣の名は伊達では無いな」
「私達は瘴気と呼んでいます。多少吸い込む程度ならそこまで問題ありませんが、大量に吸い込むと手足に痺れなどが出ますのでご注意ください」
渡されたガスマスクのようなモノを被って、降りる準備はOK。いつのまに車の外の景色は緑豊かな森が消え、一面の荒野になっていた。
これが今言われた瘴気とやらの影響なのだろう。S級魔獣としての意地なのか、それとも封印されたことによる恨みつらみが漏れ出ているのか。
強力な封印魔法を施されてなお、外部にこうして影響をもたらしているのだから、その影響力の強さと言うのが嫌でも理解させられる。
「こちらです。足元にご注意ください」
車を降りると木の板を多少雑に組んだ足場が山の斜面を這うように設置されている。よくハイキングコースにあるような、木製の歩道の乱雑なバージョンと言えば伝わるだろうか。
こんなところにプロの土木作業員を呼ぶわけにもいかないからな。これは魔法少女がせめて少しでも楽に現場まで行けるように作った簡素なものなのがわかる。
自分達さえ使えれば良い、最低限の設備と言うヤツだ。
実際、こんなところに素人が来れるわけも無いし、さっきの話を聞く限りだとバカな連中から死んでいくことになりそうだしな。
「お、やっと来たね」
「アンタみたいに生身でここに来れるほどじゃないんでね」
そこで待っていたのはS級魔法少女であり、現在最強と謳われる『絶炎の魔法少女 シャイニールビー』の師匠。
今なお、最強の魔法少女の一角と名高いファースト世代の魔法少女。『破絶の魔法少女 ウィスティー』がガスマスクも無しでそこにいた。




