決意と覚悟
悩むピリアにしてやれることと言えば、こんなことくらいしかない。似た者同士、傷の舐め合いじゃないが、助言をすることくらいは出来る。
「……マヒロさんはどうしてマシロさん達の信用を得たんですか?」
「また率直な質問だな」
「すみません。なんて言ったらいいか、わからなくて」
言わんとしていることはわかるが、捉え方では騙し方を教えて欲しいと言っているようにも聞こえるからな。
不器用だな。思った事を口にすること以外でしかコミュニケーションの方法を知らないのだろう。
閉鎖的な環境で生きてきたヤツの特徴の一つとも言える。相手の受け取り方や言葉の棘に気が付けないのさ。コミュニケーションの機会が人より少なかったせいでな。
「行動を起こすしか無いな。自分の頭で考え、自分の脚で行動に移し、他人のために尽力する。これしかない」
「自分で考えて、行動して、力を尽くす……」
「難しいだろ? 今までお前は自分で選んだ風に見せかけて決断を誘導されていただろうからな」
無言でコクリとピリアは頷く。決断を迫られるというのはピリアにとって凄まじく恐ろしいハズだ。
自分の決断で何か取り返しのつかないことにならないか、間違っていないか、失敗しないか。そういうことが脳裏に駆け巡っているだろう。
自分で決断をした事が圧倒的に他人より少ないからな。他人に誘導された決断は結果に責任を持たなくて良い。
非常に楽で独特な居心地の良さがある。それを投げ捨てて、自分で選び、行動し、それの責任を持つというのはそれをして来なかった人からすれば何よりも恐ろしいモノに見えるんだ。
実際はそれほど重くなんだがな。責任なんて大半は自分で背負う必要はない。今回の場合なら、責任は真白が持つことになる。それが女王と言う最上位の地位にいる者の仕事のひとつだからだ。
何より、決断を迫っているのは真白だからな。それなのに責任は丸投げなんてあり得ない。大体は上司や組織が責任なんてものは持つものなんだよ。
基本的に責任なんて重荷は個人には背負えないからな。人は使い潰しの利くゴーレムではない。
「だがよく覚えておけ、後悔ってのは大概の場合、やった時よりやらなかった時の方がデカいんだ」
「失敗しても、ですか?」
「失敗してもだ。失敗は糧になるし、修正することも出来るがそもそもチャレンジすらしていない時は糧にもならなければ修正も無い。動かなければ、世界は変わらないんだ」
この世界ってのは自分の見えている世界、と言う意味だ。個人の行動で世の中が変わることは稀だが、自分が生きる世界が様変わりすることは多い。
失敗だの成功だのは二の次で良いんだ。やらなきゃ、俺達の世界は変わらない。間違えた俺達はまず、俺達の世界を変えなければ話にならないのだ。
なにせ、間違っているんだからな。間違えを間違えのまま放置していて良いわけが無いだろ?
「ま、そんな理屈は本当のところはどうでも良いんだがな」
そこまで言って、梯子を盛大に外す。これは建前みたいなもんだ。世の中に自分みたいなはぐれ者を受け入れて貰うための方便に過ぎない。
実際の重要なポイントは全く別にある。
「選択肢があるのに、友達を助けない奴に信用なんてある訳ないだろ。お前だって、やりたい事は最初から決まっているハズだ」
「それは……」
「昴はお前のために戦ってるんだ。お前が自由に陽の下で生きていくために最大の障壁であるショルシエと戦うことを決断した」
昴は自分で考え、行動し、誰かのために尽力して見せた。だから真白に認められた。あの真白がずぶの素人を味方に引き込むなんて相当だ。
よほど気に入ったんだろう。修行を付けている時の本気さがその証拠だった。じゃなきゃ朱莉に預けたりしないさ。もっと段階を踏ませる。
それをすっ飛ばしても大丈夫だと真白に判断させた昴の胆力は本物。
お前はどうする? 自分の為に戦う友達を遠くで見てるだけで良いのか?
遠回しにそう聞いて、ピリアはベッドから飛び上がって、メモリーと思い出チェンジャーを掴んで部屋を駆けだして行った。
それで良い。自分に正直になれ。やらなきゃいけないこととか、建前なんて全部投げ出すくらいで良い。
自分で決めた行動にこそ価値がある。それは言い換えれば、自分に素直になるってことだ。助けたい、助けになりたいって気持ちは決して我がままじゃない。贖罪なんて、あとで良い。結果を出せば、勝手に雪がれるもんだ。
「さて、俺も俺の仕事をしよう」
俺としても今回の役割は過去の自分の行いを清算するいい機会だ。必ず、やり切って見せよう。
向かうは栃木は那須高原。S級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』が封印されている不毛の地だ。




