決意と覚悟
「でも、良いんでしょうか。私は皆さんにとって敵です」
「真白にとって敵か味方かはあまり重要じゃないからな。救えるか、救えないか。アイツにとって一番の価値基準はそこだ。お前は救える、だからアイツは手を差し伸べてる」
当然の疑問だ。ピリアは以前ファルベガと名乗り、真白の前にも敵として姿を現している。特に昴の前には高頻度で現れていた。
この辺は別に対昴に何かしていたわけじゃなく、昴達の経路とファルベガとして暗躍していたピリアの経路が一致することがたまたま多かった、程度の話だろう。
妖精界は移動手段が少ないし、移動できる距離も短いからな。一度接触した後は、方向がある程度同じなら同じような移動経路になりやすいんだろう。
その結果がこうして思わぬ方向に転がっているんだから、人生ってのは面白い。
「どうしてそんな……」
「何度でも言うが、アイツに敵か味方かは関係ないんだよ。救えるヤツには可能な限り全員に手を差し伸べるような気の狂ったヤツなんだ。そうしないとアイツ自身が納得出来ないとかいうふざけた理由でな」
何故、敵である自分にこんなに施しのようなことをしてくれるのか、世の中の敵として暗躍してしまった罪悪感に苛まれているピリアには理解が難しいだろう。
過去の俺もそうだった。なんでコイツは敵の俺に手を差し伸べて来るのか意味が分からなかった。なんなら罠かと思うくらいにはな。
蓋を開ければそこに対した理由は無かった。アイツにとってそれが当たり前で、そうしないと自分が納得できないというだけのとんだモンスター的な発想から行動しているだけだった。
「真白はお前に選択肢を与えたんだ。その意味をどう受け取るか、どうするのかはお前に全部委ねられている。だが、そもそも無かった選択肢を与えて、お前がお前を救えるようにそれを託したんだ」
「私が、私を救うため?」
「そうだ。お前は致命的な間違いを犯してここにいる。信用も無く、力も無く、立場も無い。現状、出来ることが一つも無いお前に出来ることを与えた」
罪悪感や、どうしようもない状況で悪意に晒され続けたヤツをそこから救い上げるには、そいつ自身が自らの脚で立ち上がる以上の薬は無い。
どんなに俺達が正しい道を示しても、そいつがちゃんとその道に進んでくれなければ意味が無い。大事なのは自分が選んだという体験だ。
誰かに腕を引かれただけじゃダメだ。正しい道に自分から戻るという決断と決意だけが、本当の意味でそいつを救える。
どんなに手厚いサポートをしても、転落するやつは転落する。自分で落ちることを選んでいるからな。
クソみたいな境遇や立場から逃れるには、自分でそこから逃げ出すことを選んで実行しなきゃいけない。
真白はそれをよく知っている。その選択肢が2枚のメモリーと思い出チェンジャーというアイテムだ。
「お前に与えられた選択肢は簡単に言えば3つだ。ずっとここで戦いが終わるまで大人しく裁かれるのを待つか、手に入れた力で再び俺達の敵になるか、それとも友を救いに行くか」
「……」
「生憎、悩んでる時間はそう無い。帝国で戦いが始まるのはあと数時間も無い。それまでにお前自身が選べ。帝国までの脚は残してある」
移動の補助をしてくれるドラゴンは予備人員という名目で用意されている。既に担当のドラゴンにも話は通してあるし後はコイツがどう選ぶかだ。
俺はそこに干渉しない。俺には俺のやるべきことがある。こっちもあまり時間が無い。さっさと人間界に行く必要があるからだ。こっちはこっちで時間勝負だろう。
「……スバルは、ショルシエと戦うんですか?」
「作戦では昴がショルシエと戦う予定にはなっていない。だが、戦場なんてどうなるかわからん。もしかすれば狙い撃ちにされている可能性もある。弱いところから叩くのは戦いの基本だからな」
「……」
ピリアは昴のことを案じながら、それでも悩んでいる様子だった。まあ、当たり前だな。突然こんなことを言われ、やたらと重いものを託されたうえではいわかりましたと首を縦に触れる奴はイカレてるだろ。
仕方ない。もう少し話をしてやるか。
そう思うようになった辺り、俺も相当真白に毒されているんだろうなと思いながら、俺はピリアがいるベッド横の椅子にドカリと腰かけた。




