無限界牢
こうやってダラダラと雑談しているけど、気を配るところは気を配っている。何らかの気配や魔力などの揺らぎが無いか、とかね。再三言うように私達は探知能力が高くないから、精度には期待できないけどね。
殺気でも向けてくれるのが一番良いんだけどね。魔力の探知はさておき、殺気や敵意に関しては前衛組は人一倍敏感である必要があるのよ。一瞬で判断しなきゃならないから。
「そんな簡単に尻尾は出さないわよね」
「むしろ出す理由も無いしな。ここで私達を倒すことがそもそも目的じゃないだろう。閉じ込めて消耗させ、時間を浪費させるのが目的だ」
「最悪この中で飢え死にさせるつもりなのなんじゃないかな。いくら妖精界で魔力がいっぱいあるとはいえ、エネルギーだけじゃ身体機能は維持できないだろうし」
それが可能性としては一番高いわよね。魔力が食事に該当する妖精と、食事から栄養を摂るその他の種族。
特に人間は人間界の生き物だから栄養は必須。いくら魔力というエネルギーを妖精界では多くとれるからって、それだけで生きていけるわけじゃないらしいわね。
真白曰く、妖精以外の生き物が魔力でエネルギーを摂取して生活するのは砂糖だけ舐めて生活するのと同じことらしい。
確かに間違いなく不健康だし、栄養だって不足する。1週間もしたら体調を崩しそうよね。
この空間がどのくらい維持するのかは分からないけど、魔力で維持しているだろう。魔力ならショルシエ側が心配することは無いに等しいわよね。魔力だけなら本当にバカげた量を持っているから。
「何もしなければ、軽くひと月は幽閉されるくらいの気持ちでいた方が良いだろうな」
「間違いなく餓死だね。水分取れないのもヤバいだろうし」
「魔法の氷じゃあね」
魔法の氷は解けたら消える。水から氷になったわけじゃないからね。最新の研究では水属性でも水分補給にはならないっても言われてるっぽいしね。その辺は諸説、ってヤツ?
魔法も色々条件があるからややこしいわよね。
「真白達みたいに『獣の力』に対する探知能力があれば少しは楽なんでしょうけどね」
「お前も多少持ってるんだろ? 分からないのか?」
「分かってたら困って無いわよ」
私が取り込んだS級魔獣『天幻魔竜 バハムート』はショルシエによって『獣の力』を注入された魔獣の一体だということが本人の発言から判明している。
つまり、私の中にはショルシエの『獣の力』があるということになる。そのせいで私はショルシエが『獣の力』を操ると行動を阻害されたりしてしまうことがあったのだけど、まぁその話は置いておこう。
私が『獣の力』を持っているからとは言え、感知できるかは話が別。そもそも普通の感性では恐らくまともな感知は出来ないんじゃない?精々、気持ち悪い気配がする程度のもの。
それが何か認識できている訳じゃないと思う。
明確に出来ているんだろうなと傍目に感じるのは妖精だけよね。真白や真広みたいなハーフでも明確に反応している。
獣と妖精は心の有無くらいしか差が無い、基本的に同じ生き物らしいから感知が可能なんでしょうね、くらいしかわからないけど。
「こうやって考えるとピンポイントで狙われてるねぇ、私達」
「それだけ脅威だと思われてるってことだ。だからこそ、さっさとここからでなければならないんだが」
考えれば考えるほど、どんだけ私達が嫌なんだと思うわ。フェイツェイの言う通り、それだけ警戒されている証拠だし、ここからさっさと出ようという目標は変わらず。
それにしたって、何も無さすぎて退屈になって来るけどね。こうやって長時間拘束して、感覚をおかしくさせていくのも狙いのひとつ、かしらね。知らないけど。
「ん!!」
「ん?」
「お?」
そうやってひたすら廊下を進んでいたわけだけど、ここに来てメルドラがピクリと反応する。
私達は何も感知していないけど、何かあったのかとポーチを覗き込むと。
「あっち、何かいる」
メルドラは明確に、私達以外の何かがいることを探知していた。ホント、この子は何者なのやら。




