無限界牢
「異様だな」
クルボレレに広間の雑魚を任せて抜け出した私とフェイツェイとグレースアの3人は廊下を駆けていたわけだけど、フェイツェイが漏らした言葉に私とグレースアは目を合わせて、よくわからんという意見で合致しながら、フェイツェイの次の言葉を待つことにした。
「お前らな……。ちょっとは違和感を感じろ。なんでここに来て、『獣の力』で操った一般人ばかりを兵力として使っているんだ。分身体を使えば良いだろう」
「あー、そう言えば見てないわね」
「がるるる……」
跨っているリオから呆れたような声が聞こえて来た。何よ、文句ある?
だって完全に存在を忘れてたもの。いや、だって正直そこまで強いわけでもないじゃない? 強いは強いわよ?
一般兵が相手にしたら歯が立たないくらいには強い。でも私達からしたらちょっと面倒な相手くらいの認識だ。
油断ではなく、これは確実に倒せるだろうという今までの戦いの中での認識だ。逃げ足が速いせいで今まで取り逃して来たけど、ここは最終決戦の地。逃げるもクソもあったもんじゃない。
とするなら、私達が分身体に戦って負けるってのは考えにくいワケ。戦略的に負ける可能性はあるけどね。
何にせよ、取るに足らない相手だというのはあまり変わらないわ。私からしたらショルシエ以外は全員雑魚よ。
「脳筋め。確かに今までの分身体ならそうだが、ショルシエがそれだけで済ますワケがないだろ」
「何かしらの強化はしてるはずだよねぇ。3年前みたいに私達を圧倒してるんだったらまだしも、拮抗くらいじゃね」
それもそうか。分身体の影が個人的には薄いのよねぇ。『魔法具解放』したアメティアと5本尾のベンデが互角。4本尾のカトルがクルボレレと相打ち、という話は聞いている。
この2人が弱い、という訳じゃなくて、過去に苦戦した3本尾のショルシエに大苦戦したのを考えて、互角や相打ちといった状況まで持って行っている段階で、あとは戦い方やこっちの能力アップで十分に対応出来るのよ。
アメティアもクルボレレも当たり前にベンデやカトルと戦った時より強くなってる。だとしたら、負ける理由もない。
1本尾のエネ、2本尾のジィオに至っては語る必要すら無いだろう。もはや眼中に入ってすらいない。
とは言え、その分身体達になんの強化も無い訳も無いか。何かしらは用意していて当たり前。ショルシエって存在は力の割にやたらと臆病な戦法をしてくるのは3年前と変わらない。
「分身体が誰も出て来てないのがおかしいって言いたいのよね?」
「そうだ。誰だって、本陣に攻め込まれたとあったらそれを守るための行動を取るだろ」
「自然とボスラッシュになるはずだよね。私達だって数がいるんだし」
だとするなら、分身体が私達の前にちっとも現れないのは確かにおかしいわね。アレこそ私達の足止めに使うための駒なハズ。
強化をして、私達を3年前のように圧倒するつもりなら出し惜しみする理由なんて無い。
ってことはこの状況には何らかの意味があるってことだけど、それにさっぱり見当が付かないわね。
「あんなのが考えていることなんて予想するだけ無駄な気もするけどね」
「予測不能って意味で言えば確かにそうだがな。それでも、予想はしておいた方が不意打ちを喰らわなくて済むだろ」
「って言っても全然予想なんてつかないわよ」
「がるがる」
だから脳筋なんだってリオが言ったからタテガミを引っ張っておく。余計なこと言ってんじゃないわよ全く。
フェイツェイも呆れてるけど、実際予想なんてなんにもつかないのは変わらないじゃない。
生憎、ここにいる面子は全員脳筋よ。パワーでぶっ飛ばす奴しか揃ってないじゃない。
「……ねぇ、今思ったんだけど」
「ん?」
「なんか、全然景色変わって無くない?」
グレースアからの指摘に、リオも含めた全員から間抜けな声が出て、私達はようやくもう異常事態が起きていることを知ることになった。




