3尾の獣
「とても人魚には見えねぇけどな」
泥水で作られた人魚とか見た目からしてだいぶ汚っねぇ。普通、人魚って言えばもっと綺麗で美人なもんだろ。
それを泥水って、どういうことになりゃそんな見た目で人魚って言うのかが分かんねぇ。妖精界だとそれが人魚なのか?
「ケケケケ、この力のすばらしさが分からないなんて、お前もたかが知れてるなぁ」
「それが素晴らしいってんなら、ウチは一生それで良いね」
連中からすれば、力の強さ=美しいとかポジティブなイメージなんだろうが、ウチからすればナンセンスだ。
鍛え上げられた力や技術ってのは自然と美しくなるもんだ。職人技とかボディビルなんかがそうだろ。
中途半端技術や鍛錬じゃ、見栄えが悪いもんだ。限界まで鍛え上げられたモノってのはそれだけで美しいだろ。
他の魔法少女連中もそうだ。ウチらの技術は戦う技術。本来なら綺麗さとか見た目の良さなんて二の次だが、アイツらの魔法は外から見ると惚れ惚れするくらい綺麗なもんだ。
世の中には魔法少女の戦闘シーン専門のカメラマンがいるくらいなんだ。この感覚は世間一般的にも通用する感性だろうよ。
特に、アリウムの障壁展開の瞬間と、ルビーの炎を操りながら敵に突撃していくシーンを撮影したブロマイドは大層人気らしいぜ。
だから、ウチはウチの魔法が嫌いな理由の1つなんだけどな。華がねぇったらありゃしねぇ。ただ暴れるだけの魔法に技術や効率から生まれる美しさなんてねぇからな。
「聞いてるか、サフィー。お前の魔法はとびっきり綺麗なんだぜ。そんなもんで汚してどうする」
「まだ言ってんのかよ。コイツはもう、私の一部なんだよ!!」
そう言ってシャロシーユはウチを取り巻くように濁流を展開する。城を飲み込み、瓦礫を飲み込んだ泥水の濁流は見るからにして重く、人の潜在意識から来る恐怖を駆り立てるような見た目をしている。
アレに捕まったら一巻の終わりってヤツだな。飲み込まれようもんなら、身体がバラバラになるまで逃げられねぇ。アレはそういう魔法だ。
海は命を育む場所だが、命を容易く飲み込む場所でもある。
さて、どうすっかな。あまり手加減しながら時間を稼いでも、最終的にジリ貧になる。ボコすだけでサフィーの意識が復活するなら簡単なんだが、もうちょっと検証が必要だ。
どうやってボコせば、サフィーの意識が戻るのか。ボコすにしたって色々あるからな。それがわかるまでは『魔法具解放』はお預けするしかねぇ。
「ほらほらどうしたのかしら!! 口先だけか?!」
「よく喋るもんだぜ。知ってるか? 弱い奴ほど口が達者らしいぜ」
「言ってろ、雑魚がぁ!!」
泥水の塊がこちらに押し寄せて来るのを、こちらも水流で押し返して無効化する。大量の水と水がぶつかり合って、ここから見るだけだとまるで荒れた海の上。
荒波がしぶきを立てて海面にせり立つような水の壁をいくつも作っている。
それにしても口調の安定しない奴だ。サフィーの意識から情報を取り込んでいるせいだろうなとは思うが、荒っぽい口調とお嬢様風の品の良い口調が混ぜこぜになってて気持ち悪い。
シャロシーユ自体は恐らく生まれてから時間が経ってないだろうからな。完全な意味で自己意識が形成されてないんだろうよ。
サフィーから得た情報を元に、喋るってのはどういうもんなのかを見よう見まねで真似てるってところか。
ってことはあの荒っぽい口調の部分はウチの模倣か? だとしたらちょっと気分が悪いってもんだが。
「さて、どうっすかな」
シャロシーユをただボコすのは正直そこまで難しくない。ただ、それじゃあサフィーは戻ってこない。
ウチは必ずサフィーを連れ戻さなきゃなんねぇからな。それが約束だし、ウチが姉としてサフィーにしてやらなきゃいけねぇことだ。
どうボコせば、サフィーを起こせるか。そこが焦点。後はそれを見つけるまで粘り続けられるか、そしてあんまり時間ばっかりかけてられねぇってのも困りもんだ。
出来ればさっさと倒して、ショルシエの討伐に参加しなきゃなんねぇからな。『WILD OUT』を維持しながら考えなきゃなんねぇのが本当にこの魔法は使い勝手が悪いな。
ま、文句言っても仕方ねえ。とりあえず一発殴るか。




