3尾の獣
「『固有魔法』ッ!!」
ウチが大嫌いな『固有魔法』。ある程度使いこなせるようになったが、嫌いなもんは嫌いだ。とんだ欠陥魔法と『魔法具解放』だって認識は今でも変わってない。
なんでこんなに使いにくいんだよホント。他の連中のはもうちょっと素直じゃねぇかよ。と内心悪態をつきながら。
「『WILD OUT』ォ!!」
身体強化魔法である『WILD OUT』を発動。ぐらりと理性が融けて、戦いの本能に頭も体も浸って行くのを感じながら、飛びかかって来たシャロシーユの拳を受け止める。
足元の床が割れる程の重さ。ウチの魔法を飲み込んで、魔力量じゃなくて重量も増したらしい。これだけでただのパンチが一撃必殺の威力を持ってるわけだが、それを難なく受け止めたことにシャロシーユは目を丸くしていた。
「オォォォッ!!」
硬直したシャロシーユの顔面に容赦なく左のストレートをぶち込んでいく、右手は離さないから吹っ飛んでいかない。
逃がさねぇぜ。お前を今からボコボコにすんだ。泣いて逃げても逃がさねぇぞ。
ウチの一撃の威力で身体が宙に浮くシャロシーユに2発3発を更にぶち込んで、地に足が付かないまま、殴られ続ける。
「……調子に、のんなぁっ!!」
5発程度殴ったところでようやく反応したシャロシーユが反撃に魔法と蹴りを放ってくるが、それを手を離し距離を取って対処する。
余計なことを考えずに目の前の戦いに集中することが、この『固有魔法』を使うコツだ。
ただ、純粋に戦いに没頭すればするほど、暴走するようなことは減る。前に暴走していたのは無理に抑え付けようとしてたせいだ。
例えるなら全開に空けた蛇口を栓を閉めずに蛇口の口を押えて止めようとしてるもんだ。ただ水を垂れ流してればびしゃびしゃに濡れることもねぇのに、間違ったやり方で押さえようとするから辺りに飛び散って酷いことになる。大体そんな感じ。
「お前、ホラ吹きやがったな。それは暴走する魔法じゃねぇのかよ」
「ホラなんて吹いてねぇよ。そもそも暴走する魔法だってのは間違いだったってだけだ」
前にサフィーリアに話した『WILD OUT』の事を言ってるんだろうが、アレは結局ウチの勘違いだった。
さっきも言ったようにやり方を間違えているから暴走してただけで、『WILD OUT』はただの超強力な身体強化魔法でしかない。
しかないってのは間違えだけどな。人間の中にある生き物としての戦闘本能を刺激して身体強化をする都合上、頭脳戦はむずくなるってくらいだ。
「舐めてんじゃないわよ……!!」
「どうでもいいから出し惜しみすんなよ」
舐めるもクソも、舐めてんのはそもそもそっちの方だ。こっちは舐めてねぇから最初からギア上げてんだよ。最初から全開じゃねえのは、力加減間違えてないかの確認みてぇなもんだ。
「さっさと全力出せ、殺しちまうだろ」
「『魔力解放』!!」
間違って殺しちまったら元も子もねぇだろ。身体はサフィーのだからな。殺しは無しだ。
それを伝えたら、バカにしていると感じたらしい。発言の直後、間髪入れずに『魔力解放』をしてウチに跳びかかって来る。
尾びれの全力フルスイングは相当な威力があると判断して、受け止めるんじゃなくて避ける。
案の定、床を深く叩き割って瓦礫を辺りに飛び散らせる始末だ。それを『ヴォルティチェ』でぶった切ってやり過ごしながら、次に来る水の塊の魔法を避ける。
こっちも相当重い。見た目は5cm大程度の水の塊だが、着弾した瞬間に城の床がひび割れて階下へと落ちたあとも止まらずに地面にクレーターを作った。
あの一滴だけで軽く1トンくらいあんじゃねぇか? かなり質量が圧縮されていて見た目以上に危険だ。
アイツの攻撃を受けるのは無しだな。いくら身体強化してるからって、受けるにはリスクがあり過ぎる。
【Beast Memory…… 『人魚』――!!】
更にビーストメモリーを身体に挿して、その肉体が膨張する。ミルディース王国の王都、サンティエでも見た姿は泥水を纏った巨大な人魚姫ってのがウチの印象だな。




