3尾の獣
「『人魚』のビーストメモリーの能力ってのは随分と品がねぇ能力なんだな」
確かサフィーリアが使っていたビーストメモリーは『人魚』だったハズだ。その人魚の能力とは到底思えない行動と能力を使ったシャロシーユ個人の特殊能力かなんなのか、見極める必要だありそうだな。
魔法を喰うって言えば、S級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』だが、アレはもう3年も前に死んでる。メモリー化しようとして失敗したこともな。
「『人魚』の能力なわけがないだろ。これは獣の権能だ。ショルシエから直接力を与えられた分身体にはこの権能が1つ与えられてんだ」
「さしずめ暴食ってところか。そのぶんだと憤怒やら傲慢やらがありそうだな」
「悪くない予想だなぁ。だが、これでお前の魔法は無意味だ。お前の魔法は全部私に食われる」
「……」
『権能』、か。まだ随分と大仰な名前なもんだ。仮にシャロシーユの権能が暴食。魔法でも何でも食っちまう能力だとして、他にどうな能力があるのかを聞き出したいところだが、流石に厳しいだろうな。
なんなら知らないまであるだろ。こいつ等にチームワークなんてものがあるなんて思えねぇからな。
確か、S級魔獣の能力や持っている特性にもショルシエの『獣の力』が関わっているって話も聞いている。
だとするなら、この『権能』の話もマジか。コイツの能力はリヴァイアタンと同じってわけだ。
全く、ここに来てまたアイツと同じ能力と戦うことになるとはな。
『大海巨鯨』も『天幻魔竜』もその実は制御できない自分の欲に苦しみ、暴れていたってのが最近のウチらの共通認識だ。
ショルシエに直接『獣の力』を注入された特別製の魔獣であるアイツらはその身に余る欲望のせいで暴れ、決してその欲が満たされることは無く、それに苦しみ怒り、そしてまた暴れる。
最終的にはウチらに倒されたが、そうやって色々知る度にアイツらも可哀想な存在だったんだなと同情した。
そして、コイツもそういう決して満たされない欲に踊らされることになるんだろうよ。
今は良いかも知れないが、地獄だぜその先は。心底、同情するよ。
「ってことはサフィーもそれで食ったってことか?」
「んなことしたらこの身体が消えて無くなっちまうだろ。あくまでアイツは私の中で飼い殺しさ」
それはそれとして、ウチの中でこ一番重要なことを聞いてみれば、ペラペラと話してくれた。
コイツ、情報の重要性をカケラもわかってねぇな。
ショルシエ本人なら適当に受け流してるところだ。
まぁどうにも分身体ってのは口が達者、というよりはお喋りなヤツがどうにも多いらしい。
他人から貰った力のくせに自分が絶対的に強者だと疑わないショルシエらしい性分だけは強く引き継いでるのが原因なんだろうが、ウチからしたらこんなのまともに現場で使えねぇよ。
ま、おかげでこっちは良いこと聞けたけどな。
やっぱサフィーリアの人格は完全には消えてない。
人格ってのは魂と似たようなもんなんだろうよ。よく知らねえけどよ。
少なくとも印象としては魂があるんだから人格もあんだろ。ってのがある。
妖精は魔力が自我を持ち、魂を形成することで生まれる生き物。
ってことは自我、人格が魂にとって1番重要な要素。コレがなかったら妖精は妖精としての魔力の身体を保てない。
シャロシーユの身体はあくまでサフィーリアの身体。
アイツはそこに寄生して、身体を乗っ取る寄生虫ってわけだ。
だったらそれを除去しちまえばいい。そしたら、サフィーリアは戻って来る。
「っし、やる事は決まったな」
「あぁん? まだ勝てると思ってんのか?」
そうと決まれば、まずはコイツに封じ込められたサフィーの意識を戻すところからだ。
外科的に寄生されてるわけじゃねぇからな。とっ捕まえて頭をかっ開いたからってシャロシーユがいるわけでもない。
魔法的に魂に寄生してるはずだ。だったら効くのは魔法的なダメージ。
つまり一旦コイツをボコボコにして弱らせれば、サフィーリアが意識を取り戻して、コイツと主導権争いをする事ができる。
そこまで来たら、サフィーの根性次第だな。ウチはまず、目の前のコイツをボコす。
単純で良かったぜ。
「人間ごときが、獣に勝てるわけねぇだろうが!!」
「ガタガタうるせぇよ。そもそもな話だ」
テメェだけが本能で戦ってると思うなよ?




